Hello
第35章 大野さんと僕ら
広がる血。
スライサーで、手まで、スライスって……ダサすぎるな、俺。
右手の親指が焼けるように熱くなってきて、慌てて流水に手をつっこむ。
バシャバシャ流れる水が血を洗い流してくれるが、さて、このあとどうしようか、と考えた。
……バンドエイドうちあったっけ??
ないな。じゃあ、とりあえずは、ガーゼで……ってガーゼなんかうちあったっけ?
うーん……最終、ティッシュを巻くかぁ…?…と、
ぼんやりしていたら、
「智くん??」
と、至近距離で声がした。
顔を上げたら、紺のニットカーディガンを脱ぎながら、俺の姿に険しい顔になった翔ちゃんがいた。
「あれ……早かったね」
「何回ならしても出ないから、勝手に入ったよ…つか。なにそれ。指切ったの?」
「うん……まあ」
「見せて」
言って、氷のようになった俺の手を、温かな翔ちゃんの手のひらがとった。
「ああ、ひどいね、これ。痛いでしょ」
「うーん……なんか分かんない」
「ちょっと待ってて」
翔ちゃんは、ソファーにおいた自分のトートバッグをごそごそしてたかと思うと、手帳から、バンドエイドを取り出した。
その間も切れた傷口からは盛り上がるように血がわいてきて。
その血が床にこぼれおちそうになり、とっさにその指を翔ちゃんがパクっと加えた。
「……っ」
生暖かい翔ちゃんの口の中。
ねっとりした舌が俺の指を舐めるように動いた。
「あ……痛いっ……翔ちゃんっ」
キリリとした痛みに体をすくませて、指を引き抜こうとしたら、馬鹿力でおさえこまれ、執拗に舐められる。
「翔ちゃ……」
ところが。
その翔ちゃんの舌の動きに、体が反応を始めた。
確かに痛いんだけど……指って……指ってひそかに気持ちいいんだよね……
翔ちゃんは、俺の別の指にまで口づけを始めた。
ぽってりした色っぽい厚い唇が俺の指先をくすぐる。
「……ぁ…んっ……翔ちゃん……」
苦しげな声をあげたら、翔ちゃんは、くすっと笑って口を離してくれた。
そうして、もう一度傷口を流水にかけ、手早くバンドエイドをまいてくれた。
「はい、おしまい」