BLUE MOON
第7章 立場
「母さん、勝手なことしないでくれよ」
「何言ってるの、その年にもなってまだ一人でフラフラしてるくせに」
…時すでに遅し
とでも言うのだろうか。
俺の耳に入った時点で話は進んでいたんだと昼休みに掛かってきた一本の電話で気付かされる。
「俺は行かないよ」
「ウフフ、そう言うと思って今週の土曜日にもうセッティングしちゃったから」
「勘弁してよ」
お袋からその日は大事な用事があるから空けといてくれと言われたのは1ヶ月も前の話。
…用意周到
お袋は見合いの話が出る度に逃げ回る俺の操縦方法を今回やっと攻略したらしい。
「会うだけで良いのよ。絶対に涼も気に入るはずだから」
土曜日は明後日。
「あのさ、母さんには言ってなかったけど俺だって一応…」
「お付き合いしてる人がいるって言うんでしょ?」
知ってるならどうしてセッティングなんかするんだよ。
「だったらどうして?」
俺は溜め息混じりにお袋に問うと
「それでも今回のお相手の方とは会うべきだって思ったからよ」
まるで音符を走らせるように言い切った。
声の感じからして今回はもう逃げられないらしい。
俺は鰯雲で埋まる秋の空を眺めながら
「わかった。でも、会うだけだからね。どうこうなるなんて期待しないでね」
完敗宣言をした。
「大丈夫、今回のお見合いは絶対にうまく行くから」
こんなことになるならモモをもっと早く紹介しておけばよかった。
「場所はメールしておくわ。必ず来るようにね!」
「わかったよ」
お袋のこんなに明るい声を聞いたのは久しぶりだ、なんて思いながら俺は盛大な溜め息をひとつ吐いて電話を切った。
*
「…え」
黙って行くこともできたけど
「会って少し良いランチ食べてくるだけだから」
モモの心情を考えると内緒にするべきではないと思った。
「…わかりました」
俯くモモの肩を抱き寄せて髪を撫でる。
久しぶりに早く帰ってきた理由がこの報告をするためだったなんてモモは呆れてるだろうな。
「…涼さん」
やっと背中に腕を回したモモが小さな声で俺を呼ぶ。
「何回も言ったでしょ?俺にはモモだけだよって」
ゆっくりとソファーに押し倒しながら言葉を紡ぐ。
「好きだよ…モモ」
俺が添い遂げたいのは桃子だけ
「そんな顔しないで」
甘い甘い果実の名前のこの子だけ