BLUE MOON
第7章 立場
「すごい雨だな」
まだ昼前だというのに空は暗かった。
お袋から『12時に▲△ホテルのロビー』と連絡を受け、俺は今気乗りしない見合いに来ている。
スラックスのポケットに手を突っ込み明け方から降り続く雨を大きな欠伸をしながら見上げた。
休みとなるといつまでも寝ている寝坊助のモモが今朝は早くからスリッパの音を鳴らしていた。
落ち着かなかったのだろう、モモは俺が家を出る間際までよく喋り動き回っていた。
玄関で愛してると紡いで愛らしい唇に蓋をして髪を撫でる。
たったそれだけでモモは頬を染めニコリと笑って首を大きく縦に振った。
…あぁ、抱きてぇ
暗い空を眺めながらさっさと飯を食って帰ろうと誓ったとき
「涼」
電話をくれたお袋ではなく
「父さん」
親父まで来ていることを知った。
嫌な予感がするのはこの雨空のせいなのか
俺は親父の後を歩きエレベーターに乗り込んだ。
最上階のボタンを押した親父に俺は告げる。
「悪いけど、今日の見合いは断るよ」
親父は鼻で笑うと増えていく数字を眺めながら
「まぁ逢ってみろ。返事はそれからだ」
俺の顔も見ずに言った。
兄の会社の社長を勤める親父は祖父の後を継ぐ
のが決まってる。
うちのグループ会社のナンバー2だ。
俺よりがたいは小さいが背負っているもののせいなのかやけに大きく感じる背中を見ながらエレベーターを降りた。
「すみません、遅くなりました」
日本料理屋の個室に案内されると親父は明るく声を発した。
…親父絡みなのか?
ずいぶんと気さくには話す声色を聞いて溜め息を漏らす。
「涼、中へ」
親父が入り口から一歩ずれると俺はそのまま頭を下げる。
「涼です。遅くなり失礼いたしました」
時間に遅れたわけでもないのに詫びるなんて…俺はどれだけこの見合いを早く終わらせたいのだろう。
頭を下げながら鼻で笑うと
「涼くん、顔をあげて。さぁ、席へ」
聞き慣れた声に疑問符を浮かべながら女性のクスクスと笑う声を耳にする。
「涼くん!」
そしてさらに聞き慣れた高い声
「え?」
…嘘だろ
顔を上げた俺は後悔をする。
絶対に断るべきだったと。
「ウフフ…涼くん驚いた?」
だって真っ赤な振り袖を着て口に手をあてクスクスと笑うのは
「…雅」
俺の親友の妹でメインバンクの頭取の娘だったから。