BLUE MOON
第7章 立場
「いや~涼くんは相変わらずだな」
「ホント、お兄ちゃんと違って涼くんは昔から騙されやすいんだから」
笑い声が俺の耳に突き刺さった。
雅も雅の両親も、俺の親も…
何がそんなに楽しいというのだろうか。
俺は仲居さんに勧められるがままに椅子に座る。
…上手に笑っていられてるだろうか
親父もお袋も何を考えているんだ。
こんな茶番みたいな見合いをセッティングして。
「涼、お嫁さんもらうならしっかりしないとダメよ」
誰が嫁にもらうと言った?
「そうだぞ、こんなに可愛い娘さんが桜木の家に嫁いでもいいって仰有ってくれてるんだから」
俺には園田桃子という見初めた女がいるというのに。
お相手は幼稚舎の頃からの幼馴染みの誠の妹、そして美月グループのメインバンクの頭取の夫妻の娘さん。
幼い頃から誠の後ろを付いて回っていた俺にとっても妹みたいな雅。
…ふざけるな
本当なら椅子を蹴り上げ叫んで飛び出したいがこの年にもなるとそんなことは出来るはずもなく
「皆さんグルだったんですね?酷いなぁ」
心とは正反対に困ったように笑って場を修めることしかできなかった。
「グルだったなんて人聞きの悪い。サプライズよ、サプライズ!」
そうだね。俺がお袋が持ってきたたくさんの見合いから逃げ回っている間に攻略どころか手玉に取られていたんだな。
…恐るべしだよ
セットしていた髪を意味もなくかきあげ一瞬だけ瞼を閉じる。
こんな時に瞼の裏に映るのは…どうしてだろう
「涼くん、怒っちゃった?」
俺の目の前で華やかに笑う雅とは正反対な
「そんなことないよ」
無理して笑ってる部屋着にエプロン姿の桃子で
「ごめんね、私が驚かそうっておじ様とおば様にお願いしたの」
「雅は相変わらずイタズラ好きだね」
きっともう一度瞼を閉じたらそれこそ泣いてるんじゃないかって思うぐらい無理して笑う桃子の姿で…
「あ、また子供扱いするんだから!」
「「アハハっ!」」
あぁ、本当に笑い声が耳に突き刺さる。
この話を断ることなんて出来るのだろうか
「先付けでございます。こちらは明石の鯛となっております」
「めでたいねぇ」
俺だけが笑えていない状況下で祝いの料理が運ばれる。
どうして鯛は甘い果実と同じ桃色なのだろう
…桃子
どうか悪い夢であってくれと願いながら箸を手に取った。