BLUE MOON
第7章 立場
「本当は怒ってるでしょ?」
よくある見合いの場面。
若い人同士で…なんて実の親に言われて入ったのはホテルの中にある喫茶店。
アイスティーの氷をストローで押しながら溜め息ばかり吐く俺を覗き混むように見上げる雅は赤い振り袖を身に纏ってるだけでいつもと変わらない。
「怒ってるっていうより、困ったっていうのが本心かな」
目の前にいるこの子が親友の妹じゃなければ…メインバンクの頭取の娘でなければ…
「本当にごめんね」
この話をすぐに断れないのはたくさんの従業員を守る立場である桜木家の責任からなのだろうか。
モモと同じぐらいの年をした育ちの良さが滲み出る清楚で可愛らしい子
わざわざ兄貴の親友と見合いしなくたって引く手数多だろうに
俺はどうしたものかと頭を悩ませ値段のわりに旨くないコーヒーを一口飲む。
「なぁ雅」
「ん?」
「どうして俺たち見合いすることになったんだ?」
椅子に背を預ける俺とは正反対にテーブルに肘をつき前のめりな雅に事の経緯を尋ねてみる。
「あのね…」
すると雅はモジモジしながら上目使いで俺を見上げ
「私がセッティングして欲しいってパパに頼んだの」
俺を困らせた。
「あのさぁ雅、おまえは俺に彼女がいるの知ってるよね?」
そうだよ、三日月のネックレスを会社まで届けてくれたのは他でもない雅なのだから
「じゃあどうして…」
頷く雅に俺は溜め息混じりに問いただすと
「だからよ…」
小さな声で
「涼くんが他の誰かのモノになる前にって…」
俺の頭をさらに混乱させた。
「おまえ何言ってるかわかってる?」
雅は頷くとここが喫茶店だということを気にもしないで
「ずっと…小さい頃から好きだったの」
胸のうちを吐露し始めた。
「家のために見合い結婚するのは決まってたから…だったら好きな人がいいって…」
「…勘弁してくれよ」
雅もある意味俺と同じ穴の狢だということか。
着物と同じ牡丹の刺繍が施された真っ白なハンカチを握りしめる雅をこれ以上責めることが出来ない俺がいた。
家柄を重んじる俺たちの家系は幼少の頃から敷かれたレールの上を走らされる。
「私だって必死だったんだもん…」
自らの意思とは関係なく親が決めた家柄という名の終着駅を目指して
「泣くなよ、雅…」
それは俺も雅も同じなのだと痛いほど知っていたから。