BLUE MOON
第1章 コーヒーと花束
「あの…チーフの仰ってる意味が…」
そりゃ驚くわな。
「そのままの意味なんだけど」
「そのままの意味って…」
昨日初めて逢ったヤツからこんなことを言われたってな。
「酔ってるんですか?」
「ビール2、3杯で酔うわけないだろ」
「じゃあどうして…」
そうやって頬を真っ赤に染めて俯くところも、困ったように溜め息をつくところも、張り切って残業しちゃうところも…
「惚れるのにイチイチ意味なんていらないだろ?」
…惚れちまったもんは仕方ないだろ。
この店を選んだのは純粋に旨いお好み焼きを食べさせたかったってのもあるけど、まずはキミの緊張を取りたかったから。
熱々の鉄板に生地を流すと大きな瞳をキラキラと輝かせ、お好み焼きをひっくり返せば満面の笑みをして手を叩き
「困ります…」
ソースとマヨネーズの焦げた匂いが立ち込めると目を輝かせ手をパチリと合わせて食事の挨拶をして、熱さを堪えながら頬張って幸せそうな顔するキミを30をとっくに過ぎたオッサンが言ったら可笑しいか?
「オトコでもいるの?」
「いえ…いませんけど…」
ホイホイと誰彼構わず誰かのモノになるタイプには見えない。
「だったら俺と」
「ですから!」
こう言っちゃなんだけど、今まで女に不自由してきたわけじゃない。
どっちかっていうと選び放題で遊び放題。
だから特定の女なんて必要なかった。
でもな
「昨日逢ったばかりですよ?」
「園田さんはね」
「え?」
「俺は園田さんのことを1年前から知ってたんだよ」
あの日 キミは俺を助けてくれた。
「いや厳密に言うと園田さんの淹れてくれたコーヒーを1年前から知っていた。ってことかな」
大きな目をまた溢れそうに見開くキミに
「1年前、園田さんの淹れてくれたコーヒーのお陰で無理だと言われていた大きな商談が決まったんだ」
「そんなこと…」
「あるんだよ。たった一杯のコーヒーが俺を…会社を救ってくれたんだ」
こんな理由じゃ届かない?
「あのときその商談をなんとかモノにしたくて大阪から本社に向かって…その一杯のコーヒーに助けられた」
俺はどうしてもキミがほしい
「もう一度言うよ」
鉄板を挟んでロマンチックでもなんでもないけど
「俺と…結婚を前提にお付き合いしてください」
あの日からずっと探していた人にやっと逢えたから。