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BLUE MOON

第1章 コーヒーと花束


困った。

いや、困ったなんてもんじゃない。

「そんな…コーヒーを淹れたのは業務の一貫であって…」

だって、みんなが憧れている桜木チーフが鉄板を挟んだ目の前で私に結婚を前提に…なんて突然言い出したんだから。

「突然すぎますよ…」

「なに?前もって宣言でもしておけばよかった?キミが欲しいって」

「欲しい!?そ、そんな…からかわないで下さい!」

彼は泣く子も黙る会長のお孫さん。

いずれはうちの会社を背負って立つんだと言うことぐらい今日一日一緒に仕事をしてわかった。

「からかってなんてないよ。俺はホンキも本気」

おまけに背が高く、学生の頃水泳で国体にまで出たという体は綺麗な逆三角形。

「園田さん?」

顔だってそこいらの芸能人より甘いマスク。

そんなハイスペックな人の彼女に…なんて曰く付き私には

「…無理ですよ」

って断りの言葉しか出てこない。

「…ハァ」

私は大きな溜め息を吐いてチラリと桜木チーフの顔を見る。

すると、さっきよりもさらに目を細めてニコリと微笑んで

「じゃあ、俺を振る理由を教えて」

なんて、私の言葉なんか一切気にもとめない感じで余裕たっぷりで

「そう言われましても…」

「言わなきゃ諦められないよ」

だってそうでしょう?

わざわざ私みたいなチンチクリンを選ばなくたってもっと相応しい人がいるはず

「ですから…」

「ですから?」

私だってわかってはいる。

この話が悪い話じゃないってこと

「ダメなんですよ…」

そのアーモンド色の瞳で見つめられただけで心がこんなにもドキドキと高鳴っているし

仕事だって完璧で、他の社員とも円満に立ち振る舞える器用な性格。

そんなチーフの傍に居れば心を奪われるのなんて時間の問題だろう。

だからだ。

だから私はこの身に余るほどの幸せな言葉を

「ごめんなさい…」

断るしかないんだ。

「答えになってない」

だってもし…もしもよ

また私の放った軽率な一言で桜木チーフがこの世から…

「申し訳ありません…」

「謝ってくれなんて言ってないよ」

消えてしまうかもしれない。

そう、大好きだったパパとママのように…

「ちゃんと聞かせてよ」

そうなんだ…

「私はきっと…桜木チーフを不幸にしてしまいます」

私と一緒にいたら苦しめてしまうから…

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