BLUE MOON
第8章 過ち
「…いい加減にしてくれよ」
毎晩繰り広げられるこの光景
「涼くん~」
溜め息をつく俺とは正反対に雅は満面の笑みを浮かべて会社の前で待っていた。
「だから離れろって」
そしてこれも毎度振り払う華奢な腕
「またそんなこと言って~」
それでも雅は両腕を俺の右手に絡めて満足げに微笑む。
「フィアンセに冷たくない?」
「誰がフィアンセだ?」
もはやゲーム。
ここからどう逃げ出して愛する人の待つマンションにたどり着くか
「あのなぁ雅、運転手付きだとしてもこんな若い女の子が夜中に一人でいるのは危険だ。もし万が一があったら俺はご両親に顔向けできなくなる」
「心配してくれるの?」
「当たり前だろ」
「それはもちろんフィアンセとして?」
「調子に乗るな。誠の妹でメインバンクの頭取の娘だからだ」
雅には昔からハッキリと物事を伝えていた。
それは幼い雅にあやふやな言葉を返すと期待させてしまうからだ。
「酷い」
「酷くない」
雅は俺の腕をさらに引き寄せて頬を膨らませ赤いルージュをひいた唇を尖らせる。
「今度話に行くって言ったろ?」
「今度っていつ?明日?明後日?明々後日?」
間髪入れずに突っ込んでくるのははっきりした日にちを伝えられないから。
仕事が立て込んでてモモさえも構ってやれないというのに
「じゃあ、雅はいつならいいんだ?」
「涼くんとデートできるならいつでも時間を空けるわ」
…ったく
星も見えない高いの夜空を見上げながら大きく息を吐く。
でも、いつまでもこんな風にあやふやにしているわけにもいかない。
俺は脳内にあるスケジュール帳をめくりなんとか調整をして
「わかった。金曜の夜に時間を作るよ」
「やった!」
雅の笑顔を見ながら俺は家で待つキミを想った。
「グラタンか」
「今日は少し冷えたので」
色とりどりに飾られたサラダとクッキングサイトで一番人気だったというシーフードグラタン
「うん!旨い」
目を細めて嬉しそうに笑うキミと囲む遅い夕食。
「今日も五十嵐とランチしてたね」
「食堂で食べてたら勝手に私の前に座るんですよ」
そう 在り来たりかもしれないけど幸せそうに笑うキミがいる。
「私を信用してないんですか?」
「してるよ」
…ズルいよな
頬をふくらますキミに俺はまだ言えていない。