BLUE MOON
第8章 過ち
「終わったぁぁぁ!」
五十嵐さんと麻里が携わるプロジェクトのお手伝いで残業した私は両腕をグンッと上げて背を伸ばした。
「悪かったなこんな時間まで」
涼さんは今晩用事があるというので残業を志願した私。
「腹減ったな」
気付けば時計の針は22時を過ぎ
「私もお腹減った~」
一気に気が緩んだ私たちは顔を見合わせた。
「じゃあ、五十嵐さんの奢りで」
「しょうがねぇな」
このプロジェクトを通して仲良くなった五十嵐さんと麻里はさっさと身支度を整えるとエレベーターに向かって歩き出す。
「桃子!置いてくわよ」
「早っ!ちょっと待って~」
私はこんなときも彼女たちの後ろを追いかけた。
「いいんですか?私まで」
「嫌なら帰っていいんだぞ」
半歩下がって歩く私にアイスグレーの瞳が細められる。
「出た!S王子」
私限定でオレ様になることを最近知った麻里は待ってましたとばかりに振り向いた。
テーブルについてジョッキを重ねてお互いの労を労って
「うん、旨い」
「でしょ?ここの焼き鳥は有名なんですよ」
麻里お薦めの焼き鳥をみんなで頬張る。
「はぐっ…」
「フッ…おまえ焼き鳥食うの下手くそだな」
「放っといて下さい」
串と仲良く出来ない私はここでも五十嵐さんの酒の肴にされて
「頬にタレを豪快に付けておいてその言い方はないんじゃないですか?」
「えっ!」
手元のおしぼりで必死に拭うのだけど
「そっちじゃねぇよ」
鈍臭い私は五十嵐さんの指示をうまく理解できず
「だから、あ~焦れったい貸せ」
五十嵐さんは痺れを切らすと私からおしぼりを奪い取り
「顎上げて、まっすぐ前見て」
「…ハィ」
長くて細い指を私の顎に添えてアイスグレー色の冷めた瞳で見据えて
「ったく、世話が妬けるアシスタントだこと」
「…スミマセン」
言葉とは反対に優しく拭ってくれた。
するとその一部始終を眺めていた麻里が焼き鳥の串をクルクルと回しながら
「五十嵐さんって桃子のこと好きでしょ?」
たったビール一杯で酔う筈もない酒豪の麻里が唐突に言い放った。
「な、何言ってるの?」
「アンタは黙ってて。ねぇ五十嵐さん図星でしょ?」
五十嵐さんは向けられた串を見てクスリと笑うと
「さすがピーチ姫を守るマリオさんですね」
あの馬鹿丁寧な言葉で麻里に微笑んだ。