BLUE MOON
第8章 過ち
「どうしてお兄ちゃんまでいるの?」
雅は個室に通されるとドアの前で誠を指を指して咎めた。
「当たり前だろ。雅はすぐに暴走するんだから」
俺は旨いもんを食いに来た訳じゃない。
誠が選んでくれたこの場所で見合いの話を断りに来たんだ。
雅は引かれた椅子に頬を膨らませながら腰を下ろすと
「せっかくお洒落してきたのに」
巻いた長い髪を指先でクルクルと弄り
「涼くんのバカ」
いつものように拗ねてみせた。
「で、おまえらどうすんの?」
誠がオーダーしておいてくれた料理とワインを口にしながら本題に入ると
「結婚するの」
雅は口を尖らせながら肉を頬張った。
まぁ、こうなることは想定済み。だから誠に入ってもらったわけで
「でも雅、それは少し強引すぎじゃないか?」
「…」
「涼に彼女がいるの知ってただろ?」
取り敢えず俺から説得してみると事前に言われた通り誠に預け俺は事態を見守った。
「涼は今までおまえの言うことなんでも聞いてきいてくれたけど、さすがにこれはないんじゃないか?」
昔と変わらない。あのときと同じ誠はゆっくりと丁寧に雅に言い聞かせるけど
「私は涼くんのお嫁さんになるってもう決めたもん」
これまた幼い頃と同じ、雅は一度口にすると曲げない。
雅は誠をジロリと睨むとワインを一気に煽り
「これは私と涼くんの問題なの。お兄ちゃんは黙ってて」
俺らにピシャリと言い放った。
生粋のお嬢様育ちの雅は時に雅様となる。
俺はナフキンで口を拭うと雅の目を見て
「俺は好きな女がいる」
真っ直ぐに気持ちを伝えた。
長い睫毛の奥が潤み始めるのがわかるけど遠回りして伝えたって雅には通じない。
「その人と添い遂げたいと思ってる」
酷だとはわかっていてもこの間と同様に気持ちを伝える。
「どんな人?私より綺麗?」
雅は目に涙をためながら乱暴に俺に問う。
「あぁ可愛い子だよ」
「何歳?」
「25歳かな」
「私と変わらないじゃん。どこで知り合ったの?」
「職場で俺が一目惚れした」
「一目惚れ…」
俺は嘘偽りなく雅に伝える。
「どこの会社のご令嬢?」
「普通の家庭の子だよ」
雅はその言葉を聞くと涙を一瞬で止めて
「それじゃ私の勝ちね。一般家庭の子じゃ涼くんの会社を助けられないもの」
勝ち誇ったよう静かに笑った。