BLUE MOON
第8章 過ち
「ビンゴ」
私は五十嵐さんの冷めた色した瞳を撃ち抜くように指を差した。
こうなれば私のペース…の筈だったのに
「桃子は彼氏もちって知ってます?」
「もちろん」
「麻里!」
「どんな人かもご存じですか?」
「知ってるよ。確か俺より何百倍もいい人だっけ?」
「五十嵐さんまで!」
「奪い取る気はありますか?」
「ダメ?」
あたふたする桃子とは反対に物怖じせず余裕の笑顔ですべてを受け答える五十嵐という男に飲み込まれていく。
だか異国の血が流れているからだろうか。
「大した度胸ですね」
「お陰様で」
赴任前に耳にしていた噂よりも人間味が溢れる感じで私自身嫌いなタイプではない。
「いい加減にしてください。五十嵐さんも冗談が過ぎます」
頬を真っ赤に染めたままの生真面目ちゃんがどう思ってるのかは知らないが
「桜木さんだろ?」
「…へ?」
「おまえの彼氏」
「…はぃ?!」
五十嵐さんは桃子の話なんか耳も貸さずに爆弾をぶちこみ
「安心しろ、気付いたのは俺ぐらいだから…なっ」
口をポカーンと開けて固まってしまった桃子の頭にポンと手を乗せた。
「どこで気づいたんですか?」
桃子に変わって私が尋問すると
「好きな女だよ?見てりゃわかるだろ」
フッと笑うとビールを一気に煽り
「つうか、おまえ今俺らと飲んでる場合なの?」
未だに瞳を見開いたままの桃子に意味深な言葉を投げた。
「べ、別に…いけませんか?」
桃子はとぼけて五十嵐さんに聞くと
「あの人見合いしたんだろ?」
ストレートな発言に今度はハッと息を飲むように背筋を伸ばし
「どうしてそれを…」
この人は二人の関係をどこまで知っているのだろう。
同棲をしていることも知っているのか。
桃子は助けを求めるように私の顔を見るとまるで子犬のように背を丸め小さく息を吐いた。
「おまえそれで大丈夫なの?」
「大丈夫…だと思います」
どんどん小さくなる声。
二人の関係がバレたと思ったらさらなる極秘情報を掴んでいたエリート社員。
桃子は両手でジョッキを握り無理して微笑むと
「バーカ、そういう時は強がんないでいいんだよ」
S王子が長い指先で桃子の額を小突いた。