BLUE MOON
第8章 過ち
「雅、調子に乗るな」
俺の妹は本当に手が焼ける。
幼い頃から涼に好意を抱いているのは兄妹として側にいたから気付いてはいた。
でも、まさかこんな手段を使ってまで自分のものにしようとしているとは思いもしなかった。
家柄的にどうしても恋愛結婚っていう選択肢は望めない俺たち。
そんな俺たちは子供の頃から『いい人を選んであげるからね』と口癖のように母親に言われてきたからだろうか。
「調子になんか乗ってない。ただ事実を述べているだけじゃない」
「雅…」
涼とは幼馴染みで親友だと思っている。
涼にだけはすべてをさらけ出してきたつもり。それは涼も同じだろう。
だからだ。今回のまだ見ぬ彼女とは本気なんだと思った。
女に催促されたわけでもないのにどれも同じに見えるジュエリーを一つ一つ手に取り長い時間かけて選んでいた。
呆れる俺に涼は目尻を下げてどっちが良いと思う?なんて聞いてきたよな。
でも、そんな涼が羨ましくも思えた。
俺も嫁さんのことを愛していると自負しているが なんだろうな。幸せってこういうことを言うんじゃないかってアイツの笑顔を見ていたら思えて、気がつけば俺も一緒になって嫁さんに似合いそうなブレスレットを選んでた。
でも、涼には悪いが雅の気持ちもわかる。
俺たちは惚れた腫れたで結婚はできないから足掻いてしまう。
「じゃあ涼くん、破談なら私の両親にどう説明するの?」
「…」
「私たちの結婚には会社の利益が関係してるんだよね?」
そうなんだ、実績の薄い俺たちの肩にも社会という見えない欠片が宿されている。
「もし断ったらか…」
俺たちの一存で物事を決めることも出来ないのに…
可愛らしいデザートプレートのジェラードはこの店自慢のチョコレートケーキを侵食しはじめていた。
それはまるで俺たちのよう。
「雅、いい加減に…」
「…誠」
涼は咎める俺を制すと膝に敷いていたナフキンをテーブルに置き
「そうだな。そうしたらうちの会社は間違いなく低迷するだろうな」
考えなくても描ける未来を口にした。
「なら、答えは簡単じゃない?」
雅はテーブルに両肘をついて交渉成立とばかりにニコリと笑う。
~♪~♪
「チッ、なんだよ」
こんな時に会社から電話だ。
「もしもし…」
俺は視線をはずすことなく見合っている二人を置いて部屋を出た。