BLUE MOON
第8章 過ち
「そんなに楽しいか?」
同じ立場なはずなのに心が違うとこんなにも寄り添えないものなんだな。
雅は反論できない俺に満面の笑みを向けた。
「楽しいんじゃなくて嬉しいの」
首を傾けてニコリと笑う。
こんなことがなければ愛らしいと頭でも撫でてやったのに
「もし…もしも、雅と結婚することになっても俺は彼女への気持ちを残したままになるがそれでもいいのか?」
「大丈夫」
「女としてではなく、パートナーとしてしか見ないんだぞ?」
「うん」
「関係だって続けるかもしれないぞ」
「どうぞ」
笑顔を崩さない雅にどんな言葉をかけたら諦めてくれるのだろう。
妹のように可愛がってきた雅を泣かせたいわけじゃない。
「涼くんのお父様が仰ってた。涼は照れ屋だからよろしくって」
「…」
「お母様も雅ちゃんなら安心だって手を握ってくれた」
お父様にお母様ですか。ドイツもコイツもすっかりその気じゃねぇかよ。
雅はいつのまにか頭を抱える俺の横に立ち
「ねぇ、最上階のラウンジに行かない?」
腕を取って何事もなかったかのように誘う。
「涼くんとちゃんと話したい」
さっきまでとは違う掠れた声に振り向くと雅は目に涙を浮かべて
「私だってわかってる。でも…お願い…」
苦しいコイツの胸の内を見ると
「わかったよ」
冷静になって話さなきゃいけないと思い知らされる。
どの道をどんな速度で誰と歩くか
決められることは少ないけれどすべてを捨てる覚悟で雅と話さなければならない。
捨てるものがなんなのか
会社か桃子か…
俺の腕に手を回す雅とエレベーターに乗り込んだ。
「桜木さま雅さまご婚約おめでとうございます」
夜景が綺麗に見えるソファー席に案内されるとホテルの支配人が俺たちに挨拶しに来た。
軽く頭を下げる俺と
「ありがとうございます」
ニコリと微笑みながら頭を下げる雅。
支配人はお祝いだと上等なワインをグラスに注いでくれた。
「乾杯…」
一口飲んで後悔する。
「雅、やっぱり俺…」
「わかってる…わかってるから、それ以上言わないで…」
ギュッっと握られた手に一粒の滴が落ちる。
「雅…」
真っ正面に広がる電飾の海の上にモモの胸に光る月と同じ形をした三日月が霞んで見えた。