テキストサイズ

BLUE MOON

第8章 過ち


「メインバンクのご令嬢ってもしかしてあの例の腰を抱いてた彼女?」

「うん…そう…」

あのご令嬢と一緒にいるところを目撃したことがあるのは俺たちだけじゃなかったんだ。

「でも、あの人とは何もないって言われたんじゃなかったっけ?」

っつうか、コイツは二度もそのご令嬢とやらと一緒にいるところを目にしてるんだ。

肩を落としながらも笑みを絶やさないコイツは覚悟していたのだろうか。

「おまえ…」

「五十嵐さんがそんな顔してどうするんですか」

身分の違う人と付き合うってこういうことなんだと

「桃子はいいの?」

「麻里まで、そんな深刻な顔しないで」

惚れた腫れたと簡単に言っておきながらコイツを守る術が見つからない。

「じゃあ、どうするのよ」

「涼さんが話してくれるまで待つよ」

「なんだよそれ」

胸元のネックレスを指でなぞりながらそれでも微笑むおまえを見ているとどれだけの心を持っていかれているのかがわかる。

「許せねぇ」

噂ひとつ立たせなかったコイツはアシスタントに徹して自分のこと以上に桜木さんを守ってきたっつうのに

「それで本当にいいのか?」

「いいも何もチーフから何も聞いてないですし」

それを利用して本人はメインバンクのご令嬢とハッピーエンドだなんて

「どれだけお人好しなのよ」

「…アハハっ」

見てらんねぇ。

「おまえ捨てられるかもしれないんだぞ?」

「そうですね」

「家だって追い出されるんだよ?」

「はぁっ?!同棲してたの?」

「まぁ…あぁ、内緒でお願いします」

開いた口が塞がらねぇ。

っつうか、見損なった。

入社してから常に桜木さんの背中を追ってきた。今だって目標だし、尊敬してる。

だから、そんな人が手放さなかったコイツに興味を持ったんだ。

「マジでどうすんだよ」

「そうですね」

出来るなら俺のものにして傍に置きたい。

けれどおまえはこんな状況でも

「知らん顔してます」

「なんで?」

「最後の最後まで傍にいたいので」

笑ってそう言うんだ。

「涼さんは私の恩人なんで」

「桃子…」

桜木さんは何をやってるんだろう。

「いいの。私がそれでいいって言ってるんだから」

惚れた女をこんなにも苦しめて

「ほら、五十嵐さんも麻里もパーっといきましょう!」

涙ひとつ流させないなんてどんだけだよ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ