BLUE MOON
第8章 過ち
夢を見た。
モモがマンションのベランダからひとり夜空を見上げ泣いている夢を
ソファーに座る俺はモモの肩を抱きたいのに何故か立ち上がることが出来なかった。
何度も床を蹴りソファーを力任せに押しても立てない夢の中のオレ
おまけに愛しい名前さえ紡げないというお粗末な自分に腹を立てながら夢を終わらせるべく体を揺さぶり起き上がると
「ハァ、ハァっ…痛ってぇ…」
尋常じゃない頭痛に眉をしかめる。
…え
そして、瞼を少し開けるとこっちが夢なんじゃないかっていう現実を目の当たりにした。
見知らぬ天井に見知らぬ壁
…ハダカ?
俺はかろうじて下着を身に付けているだけの格好で心地いいマットの上に身を預けていて
「痛ってぇ…」
ハンマーで殴られたかのように痛むこめかみを押しながら甘ったるいぬくもりを感じた。
…ウソだろ
俺は布団を少しだけ捲り途方に暮れる。
「ううんっ…」
「…マジかよ」
そこには一糸纏わぬ見覚えのある長い髪の女が瞼を擦っていて
「痛ってぇ…」
真っ直ぐにここまで届く太陽の光が思考停止した俺の頭をまた締め付ける。
「大丈夫?」
どうか夢であってくれと願いながら
「…触るな」
腕に添えられる真っ赤なマニキュアが塗られた指を払いのける。
「…なんで…なんでおまえがいんの?」
「なんでって…ウフフ、涼くんは酷いなぁ」
ガンガンと見えないハンマーで殴られ続ける頭で昨夜の俺たちを必死に辿る。
コイツとラウンジで支配人が出してきたワインを飲んだのは覚えてる。
「もしかして二日酔い?格好悪~い」
で、俺その後どうした?
たった一杯飲んだだけで酔い潰れるほど弱くはない。
「ねぇ涼くん」
「触るなっ!」
まさか…
重い瞼をこじ開けてクソ甘い声を奏でる隣を見ると
「雅…おまえ…」
俺の記憶では最後に雅の顔を見たときは頬に涙を溢していたのに
「そんなに睨まないでよ」
わざとらしく頬を膨らます雅がいて
「…ざけんな」
瞼を閉じると夢の中で振り向いてくれなかったモモがいた。
まるで太陽のようなとびきりの笑顔を向けて
「何した?」
「何って?」
「俺に何したかって聞いてんだよ」
夢であってくれと願いながら雅の肩を乱暴に揺すると
「何かしたのは涼くんだよ」
雅もまたとびきりの笑顔で俺の腹に抱きついた。