BLUE MOON
第8章 過ち
「頼むから離れてくれ」
雅の細い肩を押して
「悪いけど隠してくれないか」
惜しげもなく披露する肌から目を背けた。
「昨日散々見たくせに」
「いいから何か羽織ってくれよ」
頭がガンガンする。
酒のせいなのかこの状況下だからか
雅はブツブツ言いながら真っ白なスリップを身に纏うと
「もしかして昨日のこと覚えてないの?」
俺の顔を覗き込みながら聞いた。
「…申し訳ない」
本当に何も覚えていなかった。
この状況だ。何もなかったなんて言うつもりはない。
けれども…
「酷いなぁ」
どんなに酒に飲まれたって幼い頃から知っているコイツと一夜を共にしたことが信じられない。
「俺はおまえをその…抱いたのか」
だから単刀直入に聞いた。
「涼くん、ホントに覚えてないの?」
男と女が一つのベッドで過ごしたら愛や恋やという気持ちがなくても肌を重ねるものだろう。
俺だって経験はある。
でもそれは一晩だけの合意の上での遊びで分別はつけてるつもりだった。
ましてや、誠の妹の雅を抱くなんて
「申し訳ない」
あり得ない話なのだが
「あんなにいっぱいキスしていっぱい愛してくれたのに?」
雅は俺の望んでる答えを紡いではくれなかった。
窓の外には俺の心とは正反対な真っ青な空。
けれどもこの場所から太陽も月も見えない。
眩しすぎる光を目に入れたからか頭の痛さは強くなる。
「雅…」
すげぇ痛い。
「本当に申し訳ないけど…俺無理だわ」
「え?」
「こんなことになって言う台詞じゃないのはわかってる…けど、俺の中に雅と生きていくっていう選択肢はどこを探してもないんだ」
「私じゃ無理ってこと?」
俺の背中に雅の体温を感じる。
「あぁ」
か細い声が俺の心臓に突き刺さる。
「そんなに彼女のこと大切?」
「彼女ためならすべてを捨ててもいい」
「会社も?桜木も?」
「いらない」
瞼を閉じれば桃子が笑う。
白い歯を見せてニコリと俺の荒んだ心を照らすように
その笑顔があるなら地位も名誉もいらない。
「そっか…」
振り向くことも出来ない俺は
「ごめん」
頭を下げることしか出来なかった。
雅の涙が俺の背中を濡らすと
「…わかったよ、涼くん」
声を詰まらせながら
「ひとつだけ…私の願いを聞いて…」
言葉を紡いだ。