BLUE MOON
第9章 責任
ここ一週間、深夜まで働いてモモの顔を見ないようにしていた。
「お先に失礼します」
「おう、明日もよろしく頼むな」
チームのメンバーが帰ったオフィスでコーヒーをすする俺たちの回りだけ電気が灯る。
「ももちゃんの淹れるコーヒーと何が違うのかねぇ」
魚住は俺が淹れたコーヒーにケチをつけながらカップをデスクにおいて
「で、何の話?」
イスに凭れながら俺を真っ直ぐに見た。
誰かに相談して答えを導きたかった訳じゃない。
でも、誰かに話を聞いてほしかった。
「…子供が出来た」
俺は前髪をギュッと握り小さな声で言葉を紡いだ。
「マジ?おめでとう!いや~めだたいねぇ!」
魚住は間髪いれずに隣に座る俺の肩を訳もわからずバンバン叩きはじめたけど
「…おめでとうじゃないんだ」
俯く俺のことなんか気にもせず
「はぁ?!子供が出来てめでたくないわけないだろ」
魚住は背を丸めたままの俺の肩を叩き続きた。
この先の言葉を紡いだら魚住はどんな顔するだろう。
俺は魚住の手を振り払うと
「相手はモモじゃない」
「ももちゃんじゃないって…おまえ何言ってんの?」
魚住は俯く俺の顔を覗き込んで
「桜木…」
俺よりも項垂れて髪をかきあげた。
言葉は発してしまうと一気に溢れてくるもので、俺は魚住に淡々と嘘偽りなく話をした。
「雅って誠くんの妹だろ?」
「あぁ」
魚住は俺を介して誠とも面識があり何度か酒も飲んだことがある仲だ。
その妹と見合いが絡んだとしてもおかしな話だよな。
魚住は相槌を打つ変わりに何度も溜め息を溢しながら俺の話を聞いた。
「本当なのか?」
「昼に雅から連絡が来た」
「確定だって?」
「あぁ」
魚住の脳裏にもモモが映っているだろう。
きっとコーヒーを淹れてくれたときのあの柔らかく微笑むモモを
「何やってんだよ…」
その通りだ。俺は何をやってしまったんだろう。
「産むのか」
15、6のガキじゃあるまいし、一夜限りの女でもない。
「雅の望み通りにするよ」
自分で招いたことには変わらない。
その『命』にたいして責任を果たさなきゃいけない。
「ももちゃんはどうすんだよ」
なんで魚住が泣きそうな顔してんだよ。
「…切るよ、切るしかないだろ」
責任ってそういうことだろ。