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BLUE MOON

第9章 責任


「おまえそれで良いの?」

二人してコーヒーを飲み終えると魚住が長い沈黙を破った。

「良いも悪いもないだろ。俺の身勝手で命を粗末にするわけにはいかないよ」

魚住には今年小学生になった奥さんによく似た娘さんがいる。

「でも記憶ないんだろ?」

「そうだとしてもこの年になって男と女がひとつのベッドで裸で寝てたらそういうことだろ」

「だからって…」

魚住は命の尊さを痛いほどわかってるはずだ。

「選択肢はひとつしかないんだよ」

モモだってそうだ。最愛のご両親を亡くして自分の心に封までしてたんだ。

「男として責任とるしかないだろ」

そう、これしか道はないんだ。

「ももちゃんはどうすんの?だってあの娘…」

「切る…土下座でもなんでもするよ」

乱暴な言葉を使って自分に言い聞かせてもモモを手離す自信なんてない。

モモと一緒に見ていた世界から鮮やかな色だけが消えて生きてる意味さえも問う毎日だろう。

それでも魚住はこんなバカな俺のために必死に打開策を考えてくれて

「生まれてもし桜木の子じゃなかったらどうするんだ?DNA鑑定するまで待ったら?」

「産まれるまで籍を入れないって訳にはいかないだろ」

「頭下げて堕ろしてもらう…ってわけには…」

もし堕胎させたり生まれてきた子を認知しないとなったら…美月クループに多大なる迷惑をかけることになる。

「…魚住」

「悪い、すまない」

たった一度の過ちがすべてを闇に葬る。

最近やっと甘えてくれるようになったモモの心を自らの手で潰すことになる。

「俺ってバカだよな」

「何笑って言ってんだよ」

「笑うしかないだろ」

俺は目を瞑り小さく息を吐きながら天井を見上げると

「切るなら雅さんを切れ」

魚住はハッキリとそう言った。

「何言って…」

「俺も一緒に土下座でも坊主でもなんでもしてやるから、ももちゃんだけは手離しちゃダメだ」

子供がいる魚住からは想像できない言葉

「命だぞ?堕ろせって言うのかよ」

「わかってるよ、わかってるけど…」

口にしたかった言葉を魚住は俺の変わりに発してくれた。

自分が招いたこととはいえモモを手離さなきゃいけない現実

魚住は俺の分のバックも手に取ると

「もう一度よく考えろ、ももちゃんに話すのはそれからだ」

真っ直ぐに俺を見据えて諦めるなと背を叩いた。

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