BLUE MOON
第9章 責任
「…すみません」
涼さんに出逢って私は自分が思っている以上に弱虫だということを知った。
給湯室で堪えきれず涙を溢してしまったところを会議を終えて通りかかった魚住部長に見つかってしまい
「さぁ入って」
私は今、空いていた会議室に連れてこられていた。
もしかしたら部長は涼さんとご令嬢の関係を知っていたのかもしれない。
「誰も来ないから気がすむまで泣いていいから」
だって涙の意味を聞くこともなくここへ連れてきてくれたんだから。
私はその言葉に甘えて止めどなく溢れる涙を流した。
*
「部長…」
窓の外が茜色に染まり出した頃私はやっと言葉を紡ぐ。
「なぁに?」
部長は本当に優しいと思う。
すこし離れたところで見守りながら、私に柔らかな笑顔を向けてくれるんだもの。
…きっと魚住課長の奥さんは幸せなんだろうな
見たこともない部長の家族を想像しながら私は
「お願いします、桜木チーフを呼んでいただけますか?」
頭を下げた。
仕事中なのはわかっている。
でも、きちんと話さなければ私たちの関係を清算することだって出来ない。
部長は小さく息を吐くと
「…もしもし麻里ちゃん?今すぐに桜木を第三会議室まで連れてきてくれる?」
わざわざ麻里に電話した。
「ピーチ姫のピンチにはマリオが助けに来るものでしょ?」
私一人が不利にならないようにとの気遣いに本当に頭が下がる。
でも、麻里も呼んだということは私はさらに苦しい思いをすることになるというのが確定したわけで
「俺もももちゃんの味方だから」
涼さんがここに来るまでのわずかな時間で覚悟を決めろと言われているようでもあった。
私は茜色が差し込む大きな窓へと歩む。
そしてすこしでも力を分けてほしくて月を探した。
何を言われても受け止められる強い心を持てるようにと…
…コンコン
でも、こんな時に限って私が見あげている空に月は見えず
「失礼します…桜木チーフをお連れしました」
敗戦を覚悟することになる。
「…モモ」
私の背中に大好きな人の声が届く。
「悪いけど麻里ちゃんも同席してくれる?」
そして この部長の一言で私の夢は終わったのだと知らされた。
「モモ…」
お願い、覚悟を決めるから
「モモ…」
私の名前を
「桃子…」
そんな風に優しく呼ばないで…