BLUE MOON
第9章 責任
真っ暗で静まり返った部屋で
「…モモ」
微かな望みを抱いてリビングの扉を開けた。
「…わけねぇよな」
集合ポストにモモの鍵が入っていた。
『お世話になりました 桃子』
簡単な手紙を添えて。
自分が招いたことなのに片付いた部屋を見てひとり落胆する。
鍵と手紙をテーブルに置いて俺はキッチンへと向かった。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して煽る。
冷蔵庫にはコンビニのプリンがひとつ入っていた。
自分へのご褒美だと頬を緩まして風呂上がりによく食べていたっけな。
「…なんでだよ」
贅沢を言わない子だった。
俺にいつも遠慮していた。
だから甘やかしたくてしかたがなかった。
ここには居ないとわかっていながら寝室の扉も開けてみる。
「…なんでだよ」
一緒にいたときには当たり前だったんだな。
寝室はモモの甘い香りでいっぱいだった。
クローゼットの中にも何も残っていないのに
「…なんでだよ」
彼女の残り香が胸を締め付ける。
モモは俺の言葉を信じてスーツケースひとつと小さな段ボールを持ってこの部屋に引っ越してきた。
持っていたモノトーンのシンプルな洋服はいつからかパステルカラーに染まり出した。
俺の隣が似合うようになんて仕事帰りに麻里ちゃんと買い物して帰ってきてたっけ。
新しい服を纏う度にキミはどんどん魅力的になった。
そんなキミをこの部屋でどれだけ愛しただろう。
白くて吸い付くような滑らかな肌にいつまでも触れていたくて…俺だけに苦しげな表情を見せてほしくて…俺だけのモノだと確かめたくて…
出掛けようと約束してたのに朝から晩まで抱いたことだってあった。
惚れていた。
心底…命を懸けて愛した。
嘘じゃない
でも、嘘だったのだろうか
自ら手繰り寄せて自ら手放した。
自業自得だ。
「…なんでだよ…なにやってんだよ」
モモがいつも寝ていた右側に腰を掛け甘い香りの残る枕を撫でた。
「…モモ」
愛してる。過去も現在も未来も
「…桃子」
その感情だけは変わらない。
~♪~♪
無機質なベルが何度も鳴り響く。
「わかってるって…」
頼むよ。もう少し…もう少しだけでいいから
~♪~♪
明日からはちゃんとおまえの婚約者を演じるから
~♪~♪
なぁ、今日だけは頼むよ
「うぁーーーっ!」
刻み込ませて…