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BLUE MOON

第10章 モノクロ


涼くんが好きそうな淡い色した春色のワンピースを靡かせて

「どう?似合ってる?」

クルリと一回転して首を少しだけ傾けてみせる。

「いいんじゃない」

笑ってくれてるけど瞳の奥が笑っていない 興味無さげなありきたりの返事。

毎回毎回笑ってない。

「今日はねぇ…予約がなかなかとれないイタリアンなの」

それでも私は気付いていないフリをして涼くんの腕に腕を絡ませる。

「あんまりくっつくなよ」

「いいじゃない、私たち結婚するんだから」

私が腕を絡ませないと手はおろか肩にも腰にも腕を回してくれない。

「いらっしゃいませ」

「桜木です」

周りから見れば彼の名前で予約なんてしてる私ひとりが浮かれてみえるだろう。

だって誘うのはいつも私

お店の予約だって一度もしてくれたことなんてない

「ねぇ、ワインはどれにする?」

「お店の人に任せれば?」

だから私が勝手に行きたいお店に予約して涼くんとの時間を確保する。

色とりどりの料理を目の前にしても

「ねぇ…」

「ん?」

「あのね…」

「なに?」

料理の感想はおろか私から話しかけないと会話もない。

「やっぱりいいや」

「なに?気持ち悪いから話してよ」

付き合う前はもっと話をしてもっと笑ってたのに

「涼くん忘れちゃった?」

「何を?」

「今日が何の日か…」

毎年小さな花束をくれる日さえも

「え…あっ…」

「雅、本日26歳になりました」

私だけのモノになった途端に忘れるなんて

「ゴメン…えと…今から店…もう開いてないか…」

誘ったときに無反応だったから期待はしてなかったけど

「何が欲しい?」

「ネックレス」

忘れてたから意地悪なことを言ってみる。

「…わかった」

不自然な間のあと涼くんはいつものように瞳の奥に影を落として笑った。

デザートを食べながら私は涼くんの目の前にホテルのキーを差し出す。

「ひとりぼっちのお誕生日は嫌だから」

私たちはまだ二人で朝を迎えたことがない。

予定通り先月、私たちの光が消えたことを話した。

それを気にしているの?

気にしてくれるのは嬉しいけど涼くんと繋がった証がほしい。

ネックレスなんていらないから

私が婚約者だって刻み込んでほしい

あなたの全部を感じたい

「…そうだよな」

婚約者だもの、ワガママなんかじゃないよね…

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