BLUE MOON
第10章 モノクロ
「じゃ…入ってくるね」
駄々っ広い部屋で雅の甘ったるい声を聞いた。
バスローブを羽織って俺こそ準備万端って感じだけど
「…細いな」
俺はそんな桃色の声に振り向きもせず広い部屋に相応しい大きな窓から細く弧を描く月を眺めていた。
雅の誕生日を忘れてた。
こんな関係になるまでは幼馴染みの友人として毎年遅れたとしても小さなブーケを渡していた。
幼い雅に初めてプレゼントしたときは目も口も大きく開いて一丁前に頬を染めていたっけ。
最近じゃもっと大きな花束を寄越せって文句ばっかり言われてたけど、それでも花瓶に生ける姿をみると親戚のオジサンよろしく俺も頬を緩ませていた。
そんなアイツを抱けるのか…
後腐れのない一夜限りの女とわけが違う。
…って言っても、一度は抱いたんだよな
まったく記憶にないけど…
じゃなきゃ俺たちに光は芽生えなかったはず。
残念だけど…その光は運悪く夜空に輝く星のひとつになってしまったけど
雅を傷つけてしまったのには変わらない。
…ハァ
先日の会議で聞いた最近の営業利益の話もそうだ、親父が言っていたようにここのところ明らかに下方ぎみだ。
都会のど真ん中で輝く今日の月はかなり欠けて細いのにやたらに大きく見える。
…モモ
キミは前を向けただろうか…元気に過ごしてるだろうか…
月の傍に輝く星を見つけてまたキミを想う。
いつか行った旅先でモモと風呂に入りながら満点の星空を眺めたっけ
部屋が広すぎて落ち着かないだとか、料理が豪華すぎるだとか、自分にはもったいないとか
素直に楽しめばいいものを…
モモにこんな広い部屋を用意したら何て言うんだろうな。
きっとまたもったいないだ何だと言いながらすごく嬉しそうに笑うんだろうな。
…カチャ
「…エヘヘ」
雅は俺の気も知らないで同じようにバスローブ一枚でベッドの前に立った。
**
付き合い始めて2ヶ月、やっと二人で迎えた初めての朝
「…バカ」
背を向けて眠る俺の背中が濡れ始める。
俺は寝たフリをしていた。
「…なんなのよ」
その涙が嬉し涙ではないと知りながら。
…だって無理だろ、気持ちもない女を今の俺が抱けると思うか?
背中に感じるぬくもりは甘いものではない。ただの違和感。
俺は結局、雅を抱きしめることも唇も重ねる事もなく朝を迎えた。