BLUE MOON
第10章 モノクロ
「相変わらずマリオは厳しいねぇ」
「…しょうがないだろ」
モモの同期の麻里ちゃんはあの日以来、俺に対して当たりが強かった。
あの日、頭を下げる俺にモモは『サヨナラ』と告げて会議室を後にした。
麻里ちゃんはモモを追いかけると思いきや俺の目の前まで走ってくると胸ぐらを掴み罵声を浴びせながら胸を殴り続けた。
それはまるでモモの気持ちを代弁するような言葉の数々で自分がどれほど酷いことをしたのかを嫌っていうほど解らせてくれた。
そんな中、麻里ちゃんの代わりにモモを追いかけたのはモモの味方だと初めから言っていた魚住だった。
魚住が会議室に戻ってきたのは陽もすっかり沈んだ時間だった。
戻ってきた魚住からは何も聞いていない。いや、聞いたらいけないと思った。
魚住はそれ以後も納得していないらしく、こうやって麻里ちゃんにモモの現状を聞いてくれたりなんかする。
あの麻里ちゃんが俺に現状を話すことはないとわかってはいるけど…
「でも、知りたいだろ?」
「元気でやってくれてたら俺はそれでいいよ」
知りたかった。
モモが今どこで何をしているのか
もう俺の元に戻ってこないとわかりながら知りたい衝動
あんな酷いことをしたのに見守りたいと思うのは男の性なのか。
「東京にはいるらしいんだ」
「ふーん」
不味いコーヒーを口にして興味のないフリをする。
「桜木、俺はなぁ…」
「わかってるよ」
モモだけは“切るな”と言った魚住はまだ諦めていないらしい。
「腹の子は流れたんだろ?」
「流れても傷をつけたことには変わらないだろ」
「何でそこまでおまえが背負うんだよ」
魚住は俺のために何度こうやって言ってくれたか
「もう終わったことだ」
「桜木…」
そして何度俺の代わりに舌打ちをしてくれたか
~♪~♪
…またかよ
さっき切ったばかりのすまほがまた軽快に鳴り響く。
「もしもし…」
耳に届く声はさっきよりも小さな声
「わかったよ…」
どうしても逢いたいと、寂しいとあの手この手を使って催促するご令嬢
「遅くなるけどそっちに行くよ」
これが俺の婚約者。
こうやって心に蓋をして俺たちは少しずつ恋人同士になっていく。
「…はぁ」
大きな溜め息を吐きながら手を振り俺の横をすり抜けていく魚住
誰も幸せにならない結末を選んだのは俺なんだな。