BLUE MOON
第10章 モノクロ
『泣け泣け、泣きたいときは思いっきり泣いちゃえ』
彼女は本当にママのような人だった。
堰を切ったように涙を流し続ける私の隣に座ると抱きしめてずっと頭を撫でてくれた。
その手はぬくもりに溢れていて
『すみません…』
いつまでも撫でてほしくて…
『いいから気がすむまで泣きなさい』
もっと慰めてほしくて…
『…ごめんなさい』
彼女は理由も聞かず、涙をながし続ける見ず知らずの小娘を慰めてくれた。
どのぐらい泣いていたのだろうか、やっと落ち着いてきたところで
『はいよ、ゆっくり飲みな』
マスターがカフェオレを淹れなおしてくれた。
『…すみません』
鼻をグズグズとすすりながら頭を下げるとマスターは私の背をポンと叩いてまたカウンターに戻っていった。
『飲める?』
彼女の柔らかな微笑みが心をまた軽くしてくれる。
『いただきます…』
大きなカップに入ったカフェオレをゆっくりと口に運ぶ。
…あっ
味は思った通り、優しいなかにコーヒーの風味が存在してミルクの甘さをより引き立てて
『美味しぃ…』
私もつい頬を緩めた。
彼女はエヘンとわざとらしく咳をすると
『当たり前でしょ?私のダーリンが心を込めた淹れてくれたんだから』
胸を張って得意気に笑った。
よく見れば年の頃は三十代半ばの彼女。マスターはもう少し年上に見える。
『ご夫婦なんですか?』
『そうよ、あの人がどうしても私と結婚したいって言うからお嫁に来てあげたの』
それを聞いていたマスターはカウンターの中で微笑みながらカップを拭いる。
…この二人は幸せなんだ
心の底から思った。
月の見えない海は真っ暗でこのカフェに微かに波の音を届けてくれる。
その音を聴きながらもう一口カップに口をつけると
『あなた、泊まるところはあるの?』
彼女はテーブルに肘を付きながら
『いえ…まだ決めてません』
『じゃあ、うちに泊まりなさいよ』
さらっと口にした。
『…え?』
彼女は私の肩をどしりと抱くと
『宿代は…』
この人はハッキリと物事を言うだけの人じゃなかった。
『明日しっかりここで働いてもらうから』
強引で
『もう女の子が一人で出歩く時間じゃないでしょ?』
優しさの塊のような人だった。
*
「お待たせしました~」
その日から私はこのカフェにお世話になっている。