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BLUE MOON

第10章 モノクロ


「ダメ?」

「もう少し待てない?」

別にいいけど

「なんで?」

「だから片付いてないんだよ」

来たらおまえはまた苦しむことになるよ?

「いいよ汚くたって」

「そうはいかないよ」

最近の雅はやたら俺の部屋に来たがる。

別にかまわないんだけど、来たら来たでおまえはきっと怒るだろう。

「じゃあ早く片付けて」

散らかってるわけじゃない。

モモと過ごしたままの部屋だと知ったら独占欲の強いおまえはまた怒りだすだろう。

「週末にでも片付けるよ」

「週末はダメ。私とデートしてくれるんでしょ?」

何度も片づけようとした。

頬を寄せて撮った写真も揃えて買ったマグカップも

「わかったよ、時間見つけて片付けるよ」

部屋は未だにモモへの気持ちで溢れていた。

そんな部屋に来たらおまえはいい顔しないだろう?

でも…でももう少し、あともう少しだけでいいから…

「送るよ」

「イヤだ、涼くんとホテルに泊まるの!」

泊まったってきっとまた指一本触れられない。

「それは…」

涙を溜めて大声を発する雅は婚約者として正しいことを言ってる。

「じゃあいい!」

…バタンッ

間違ってるのはオレだ。

「待てよ」

車から飛び出すように降りた雅の後を追う。

「わかったよ、泊まるから」

捕まえた手首を睨み付けながら振り払われる。

「もういい!着いてこないで!」

都会のど真ん中でいいオッサンがは何をしているのだろう。

見上げた夜空に今日も月は出ていなかった。

*

「アンタちょっと飲みすぎじゃない?」

「いいの、飲ませて!」

あとから来た隣のグループはやけに煩かった。

「麻里さん店変えようか?」

「そうですね」

仕事帰りに五十嵐さんと立ち寄ったバーでお酒の飲み方を知らない女がやっと契約まで結びつけた私たちの心情を台無しにする。

「仕切り直しだな」

「ですね」

半分ずつ残っているグラスに視線を落として溜め息をつくと

「雅、嘘を付いて奪ったんだから仕方がないでしょ?」

耳を疑うような台詞が聞こえてきた。

「私じゃない!あの女を忘れようとしない涼くんが悪いの!」

アイスグレー色した冷めた瞳がキラリと光る。

「ヤってもいないのに子供出来たなんていう雅が1番悪いでしょ?」

…この女

グラスを握りしめながら五十嵐さんと視線を重ねた。

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