BLUE MOON
第10章 モノクロ
私は人生を変えてしまうほどの恋愛をしたことがない。
それは私が望んでいないわけではなく、まだ運命の人に出会っていないからだと思ってる。
職場でこっそり『マリオ』なんて呼ばれてるけど私だって普通の女子である。人生を変えるほどの恋をしたいと思ってる。
それが誰なのか、運命の人にはもう出会ってるのかは別として…
「すみません、マティーニをひとつ」
「僕はこれと同じものを」
『私は恋なんてしない』かわいい顔した同期が言ったあの日言ってろって思った。
そう言いながら男を手玉に取るんでしょって。
でも違った。桃子は誘われても笑顔で断り続けていた。
部で催す大きな歓送迎会や年に一度だけある同期会、それ以外は私と白石と三人で飲みに行くだけ。
出会いすら求めていなかった。
それは彼女生い立ちにあると知ったのは随分後だった。
それでも恋をしようと誘っても首を横に振り一人で生きるんだと薄化粧で地味なファッションを貫く桃子。
本当に一人で生きていく覚悟なんだって何度思い知らされただろう。
でもね、そんなある日彼女が恋をした。
悩んで悩んで恋をした。
たくさんの愛に包まれて花を咲かせた。
咲いた花は想像以上に綺麗で美しくて私も早く王子さまに出会いたいって心底思った。
でも、神様はイタズラが過ぎた。
たった一人の小娘のワガママでぶち壊された。
会社を去ったあの日、桃子は『全部夢だったの』と寂しそうに笑った。
そんな彼女を守りたい私は東京にいると魚住部長には嘘をついた。
だってあの娘を探したりなんかされたらまた傷つくって思ったから。
今、桃子は小さな町の海沿いのカフェで働いてるらしい。
らしい、というのは彼女がきちんとした場所を教えてくれないから。
連絡が来たのだってあの日から半年たった先週の事。
その間に桜木チーフとご令嬢は婚約した。
「だって聞いてくれる?まだ部屋にも入れてもらってないし…キスもセックスもまだなんだよ!」
「大切にされてるってことじゃない?」
「まさか!あの女よ!あの女のせいよ!」
…そんなに好きならどうして別れたのよ
あの日別れてくれと頭を下げたチーフは未だに桃子を求めている。
こんな酷い女に捕まって…
どうしたらもう一度桃子が幸せそうに笑えるのか
私は背中でご令嬢の話を聴きながら必死に頭を回転させた。