BLUE MOON
第10章 モノクロ
…ガタンっ
「え…」
「シー」
五十嵐さんの頭は私よりも何倍も早く回転しているんだろう。
彼は席を立つと唇に人差し指を当ててイタズラに笑い、スマホをコツンと指で跳ね
「ねぇねぇ、あの人つまらなかったから仲間に入れて」
私をダシにしてご令嬢たちのテーブルにちゃっかりと座った。
一瞬の沈黙のあとご令嬢たちは目をハートマークにさせる。
「グラスが空じゃん、何頼む?」
いつもはクールに決めてる五十嵐さんがチャラけて笑うとこの私でさえも胸がドキリと音をたてた。
不意に現れたイケメンを前にモジモジするご令嬢に
「出会えた記念に泡でも開けようか?」
聞いたこともない甘い台詞を紡ぐ。
「いいわね、開けちゃいましょ!」
五十嵐さんの百面相には慣れたつもりだったけど
「かんぱーい!!」
…こりゃ天才だわ
まだまだ五十嵐さんを知らないようだ。
私はグラスに口をつけると五十嵐さんの指示通りスマホを彼女たちの方に向けタップした。
…頼む、五十嵐さん!
ここにさっきの話をもう一度残せれば証拠が残る。
そしたら…もう一度桃子の笑顔が見れるかもしれない
私は背中でご令嬢たちの話を聞きながら祈った。
*
「どうしたの?二人から飲みに誘われるなんて珍しいじゃない?」
次の日、私たちは魚住部長と桜木チーフを飲みに誘った。
忙しいから断られるのではと五十嵐さんは懸念していたけど…
「たまにはいいじゃないですか」
あの日以来口もろくに訊かなかった私が誘ったということが何を意味しているのか気付かないほどバカな二人じゃない。
4人でグラスを重ねたあとに今の仕事の状況を軽く話し、続けて魚住部長の昔話を聞いたあとに
「そろそろ本題に入ろうか」
部長はニッコリと笑って促した。
「お二人にどうしても見てもらいたいものがありまして」
話を切り出したのは五十嵐さんだった。
「何だよ…」
「見ればわかりますよ」
顔を見合わせる部長とチーフとは対称に五十嵐さんはクスリと笑うとテーブルに置いていた私のスマホをタップした。
『だから~従業員を買収して~薬入りのお酒を飲ませて~ヤってもいないのにヤったって嘘付いて~』
『アハハ、それで?』
『子供が出来たって嘘ついて~奪っちゃったの!』
『凄いな~』
『でしょ!雅天才だもん!』
桃子…やってやったよ