BLUE MOON
第10章 モノクロ
『雅ちゃんは凄いね~』
『違うよ、凄いんじゃなくて欲しいものは絶対に手にいれたいだけ』
小さなスマホの中から響く耳を疑いたくなるような言葉の数々が頭の中を何度も巡る。
魚住が俺の名前を何度も呼ぶけど
「…けんな」
返事ができる状態ではなかった。
愛する人と肌を重ねて命が授かる意味をこの歳にして学んだ。
快楽なんて二の次だった。
五感のすべてで触れたくて包み込みたくて…
遺伝子を分けあい愛の結晶なるものを手にいれたかった。
「…ふざけんなよ」
そして産まれた子には抱えきれないほどの愛を注いで幸せに…なんてモモだから望めたのに
「桜木…」
わかってる…雅が何をしようと騙された俺がいけない。
会社のためとかそんなことに縛られて
「ももちゃんにはこの事実を話した?」
「…まだです」
自分の不甲斐なさに苛立ちながらスマホから流れ続けるふざけた話に耳を傾ける。
『この子凄いんだよ、探偵使ってその女の居場所まで突き止めてんの』
『凄いね、普通そこまでする?』
『だって監視してないと何するかわかんないじゃん』
『なるほど、で、その子どこに逃げたの?』
仕事ができるヤツだとは思ってたけど
『千葉のシャチがいる水族館の方、カフェで店員してんだって』
ホント、使える後輩だ。
五十嵐と麻里ちゃんも敵を打つように俺と同じように酒の力を最大限に利用して雅から話を聞き出した。
「桜木チーフ、私たちに出来ることはここまでです。あとは会社のために自分自身を捨てるのか…モモを迎えにいくのか決めてください」
麻里ちゃんが泣いていた。
「麻里ちゃん本当にありがとう、五十嵐も…」
テーブルの上に置かれた麻里ちゃんの手は爪の痕が残るんじゃないかってぐらい強く握りしめられていた。
「俺からも礼を言わせてもらうけど…五十嵐、こういうことに麻里ちゃんを巻き込むな。おまえがどうなっても構わないけど麻里ちゃんに何かあったら…」
「私が勝手に…」
「五十嵐、今度は俺も誘え。俺もなかなかいい仕事するぞ」
部下に恵まれているというよりモモがこんなにも愛されてるんだと思い知る。
「さて、どうする?桜木」
魚住が笑ってた。
「俺は何をすればいい?ももちゃんのためなら何でもするよ?」
そうだよな、おまえはずっとモモの味方だったもんな。