BLUE MOON
第10章 モノクロ
「う~んっ!旨い!」
首にタオルを引っ掛けてお風呂上がりのビールを豪快に流し込む。
1Kの格安アパートで炭酸に負けそうになりながら涙目でこの味を噛み締める至福のとき
「今週もよく働きました!」
お休み前のささやかなご褒美は今の私の生きる糧だったりする。
「月は見えるかなぁ」
海が少しだけ望めるこの場所にも窓を開けると波の音が届く。
ベランダに出て湯冷めをしない程度に空を見上げると
「風邪引くわよ」
「あ、夏海さん」
隣の部屋に住む大家である夏海さんが顔を覗かせた。
そう、この部屋は夏海さんが経営するアパート。
「夏海さんこそ風邪引かないでくださいよ」
って言っても、お祖父ちゃんから譲り受けて経営してるって言ってた。
「私はここ何年も風邪なんか引いていないのよ」
なので私は住み込みのような形でカフェで働かせてもらっていた。
「ツマミを多く作っちゃったからこっちに来る?」
「いいんですか?」
「ダーリンもいないからスッピンでどうぞ」
あんまり人を頼るのは好きではないけれど、あの日このカフェのドアを開けなかったら私はどうしていたんだろうとたまに怖くなる。
「おじゃましまーす」
夏海さんのお部屋は大家さん仕様なので私の部屋よりもかなり広い。
「相変わらず綺麗にしてますね」
「部屋だけはね、汚くなると手がつけられなくなるから」
お店同様、カントリー仕様のこのお部屋は木のぬくもりで溢れていて抜群に居心地が良い。
でも、今日は少しだけ違う。
いつものようにソファーに座り美味しいおつまみと缶ビール片手にくだらない話をするんだけど…
「ももちゃんは岡本さんのことどう思ってる?」
「どうって別に…お客さんの一人ですよ」
何となく避けていた色恋の話になっていた。
「あの…夏海さん私は…その…」
もしかしたら早とちりかもしれないけど夏海さんのお店でずっと働かせてもらいたいから私は頭を下げる。
「ゴメンゴメン、余計なお世話よね」
私はこれだけお世話になっているのに夏海さんにまだ話していない話がある。
「違うんです…あの…」
~♪~♪
言葉を続ける前にテーブルに置いていたスマホがタイミング悪く鳴り響く
…麻里?
「すみません…」
私は画面をタップして
「もしもし…」
久しぶりにセカセカした彼女の声に耳を傾けた。