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BLUE MOON

第10章 モノクロ


事情があるのだとは思っていたけど

「ももちゃんは悪くないよ」

ここまで背負っているとは思わなかった。

はじめて会ったあの日、スーツケースを手にした彼女はひどく疲れたように見えた。

「いいえ…私のせいで両親は亡くなったっていうのに…」

彼女はカフェオレを前にすると堰を切ったかのように涙を流し始めた。

「彼の言葉を鵜呑みにして舞い上がって…」

きっとここにたどり着くまで我慢していたのだろう。

肩を震わせしゃくりあげて泣く彼女が小さくて

「私ひとりが幸せになろうとして…」

強引に泊まらせると彼女は行く宛もないからこのままここで使ってくれないかと頭を下げてきた。

若い娘さんを追い出すわけにもいかないと言うのが本音だったけど、いざ働いてもらうとコーヒーの知識が豊富で、愛想も良く私たちにとっては結果オーライといったところだった。

「自業自得です」

でも、彼女はいつまでたってもここに来た理由もあの日泣いた意味も私たちに話すことはなかった。

「ももちゃん、それは違うと思うよ」

そんなだから常連さんたちが明るく元気な彼女に好意を持つのも時間の問題だった。

あっという間に看板娘になった彼女だが、不思議なことにオンナという武器をチラつかせることがなかった。

会ったその日こそ女性らしいフワリとしたコートを羽織りマーメイドラインのスカートを纏っていたけど

「いえ…本気になった私がいけなかったんです」

その日以来彼女はポニーテールにパーカーとデニムという色気も味気もないスタイルでこの街に染まっていった。

それなのに、苦しめた彼がももちゃんに会いたがっていると言う。

事情がどうあれ、やっと前を向けた彼女にとってはそれは酷である。

「ももちゃんはその人の傍にもう一度居たい?」

ももちゃんは首を横に振りながら一度止まりかけた大きな瞳からまた大粒の涙を溢し始める。

「一緒にいたいんだね」

私に嘘なんかつかなくていい

「素直になりなさい」

好きなものはどう足掻いたって嫌いになれないんだから

「もう…いいんです…」

その彼が探し出してくれる日が来るのを待つしかない。

「話してくれてありがとう」

その彼のことを今でも好きなんだね。

「私が傍にいるから…ね、ももちゃん」

だってあなたは自分ばかりを責めて彼を悪く言わないもんね。

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