BLUE MOON
第2章 恋心
さっきまであんなに大きな溜め息をついていたのに
「園田さん?」
お好み焼き屋さんで向けてくれたあのアーモンド色の瞳に見つめられると
「具合悪い?」
あの日の出来事は夢じゃなないかも…なんて思えた。
「い、いぇ…」
そう、そのぐらい桜木チーフの視線はあのときと同じく優しかった。
チーフは仕事とプライベートを分けるタイプだということはこの間食事をしてわかっていた。
だから一瞬でも優しい瞳が重なれば悩みまくっていた私の心は一気に跳ねる。
そうなればもうチーフのペース。
「急ぎってわけじゃないんだけど…昼休み終わったら資料室に来れる?」
「…行けます!行きます!」
チーフは勢い余った私を見てクスクスと笑うと
「じゃ、早くご飯食べちゃいな」
私の頭にポンと手を置いて席を立った。
歩きだした瞬間にスラックスのポケットに手を突っ込んだ彼の背中を視線が追いかけると
「資料室ねぇ」
「あっ…へっ?」
一気に現実に戻してくれたのは一部始終を特等席で眺めていた麻里。
「心配して損した~」
「そ、そう?」
私たちの席は社食の中でも奥の方だから人は疎らだけど
「チーフってあんな風にも笑うんだね」
こんなところで私たちのことが他の女子社員にバレでもしたらOL人生は終わる。
だから2週間前の満月の夜、2枚目のお好み焼きを目の前に私はあるお願いをした。
『私たちの関係を黙っていてもらえませんか?』
だって知られたらココでは働けない。
お好み焼きを食べたあの日以降、アーモンド色の瞳は優しくは微笑まなかった。
お願いをしたのは私の方なのに…
それなのに私は桜木チーフからの言葉を疑ってしまったんだ。
…まだ半信半疑ではあるけど
麻里が言うように桜木チーフのプライベートの電話番号も知らない…
「信じていいのかなぁ」
あの大きな花束を抱えてきたあの日に出逢ってから電話番号はおろか最寄り駅も好きな食べ物も好きなお酒も知らないんだ。
「なに言ってんの。やっとアンタの心を抉じ開けてくれたんだから信じてみなさい」
「麻里…」
彼女…ってなんだろ
「いいから早くお弁当食べて資料室でイチャコラしてこい」
「す、するわけ!」
「で、初めてのチューでもしてもらってこい」
「ま、麻里!」
そっか…彼女らしいことも何もしてもらってなかったか。