テキストサイズ

BLUE MOON

第2章 恋心


すぅ~

胸に両手を押し当てて

はぁ~

ひとつ大きく深呼吸をした私はIDカードで資料室を解錠した。

カチャ…

「失礼します…」

そして ドアをゆっくりと閉めてから桜木チーフが使っている右奥の棚に向かうと

「ちゃんと弁当完食したか?」

本棚に寄りかかりながら腕を組むアーモンド色の瞳の持ち主がそこにいて

「はぃ、しっかり完食しました」

「うん、いい子いい子」

その目を細めて私の頭を撫ながらまた柔らかく微笑んだ。

「顔真っ赤だよ?」

「だってチーフが子供扱いするから」

「なーんだ。少しは俺のこと好きになってくれたのかと思った」

「へっ?」

頭を撫でていた大きな手が私の背中までゆっくりと降りてくると

「職場でこんなに顔を付き合わせてるのにお預け食らってる俺の身にもなってよ」

「お預け?…あっ…」

そのまま引き寄せられて腕のなかにすっぽりと納められた。

「チーフ…」

「逃げないで」

お好み焼き屋さんでも思ったんだけど桜木チーフはONとOFFをしっかり使い分ける。

そのギャップに私の心臓は鼓動を早めて大きな音を出す。

「…逃げてません」

きっとチーフには聞こえているだろう。

「いい香りがする」

「臭いですか?」

「いい香りって言ったでしょ?…チュっ」

…あっ

桜木チーフは私の頭にたぶん…キスをした。

ここは会社の資料室なのに

「モモ…」

たった一言私の名前を呼んで

「早く俺に追い付いて」

今まで聞いたこともない甘い言葉を紡がれればここが資料室だとかどうでもよくなる。

「もう…好きになってますよ」

私はどうしたらいいか分からなかった両腕を大きな背中に廻す。

少しでも想いが伝わればいいって思いながら。

「まだまだ足りない」

もしかしたら2週間放っておかれた訳じゃなかったのかな。

私の想いと心が少しでも育つように待っていてくれたのかもしれない。

「桜木チーフ…」

でも…伝えるのは怖い。

「ん?」

幸せな気持ちになればなるほど私の心には黒い感情が思い出されるだろう。

あの日あのとき、甘えた私のせいで亡くした2つの命…

「ここ資料室ですよ?」

「そうだったな。悪い暴走した」

仕事モードに切り替えて本棚に手を伸ばしたチーフを見上げながら私は自問自答した。

…この人を好きになっていいんだよね

ストーリーメニュー

TOPTOPへ