BLUE MOON
第2章 恋心
「寒くないか?」
俺の前を弾むように歩くモモに声をかけた。
「寒くないですよ」
振り向くキミは波打際で目を細めて返事をする。
年の離れた小娘にいいオッサンが心奪われたなんて
「ワァッ!」
「おいおい気を付けろよ」
魚住が腹抱えて笑うわけだ。
アイツに俺たちのことを話したのは昨日のこと。
一応モモの上司で社で俺が一番信用しているツレだし…
一応耳に入れておいた方がこの先何かと便利だと考えて、久しぶりにサシで呑んだ居酒屋で軽く話したつもりだったのに
アイツは時が止まったかのように俺の顔を見据えると腹を抱えて笑い
『ももちゃんを泣かせたら俺が承知しねぇからな』
なんてギロリと睨みながら上司面しやがった。
「あんまり調子に乗るなよ」
「いいじゃないですか。海ですよ海!それも夜の海!」
潮風に髪をなびかせ波と戯れるなんて30過ぎた俺にはもう出来ない。
「何見てんだ?」
モモは立ち止まったと思ったら空を見上げニコリと微笑んだ
「月です」
「ん?…どこにある?」
「ほらあそこです。うっすらと見えません?」
「はぁ?」
キミが指差す彼方先
「あれか?細い線みたいな…」
「そうです。昨日は新月だったから今日は細い月なんです」
国道からの明かりがわずかに届くこの場所。
モモの顔が辛うじて見えるこの距離
「モモ…」
俺は堪らず後ろからモモを抱きしめた。
「…チーフ?」
「チーフじゃないだろ?」
「えと…涼さ…ん」
「良くできました」
甘い香りが俺の胸にいっぱいに広がる。
「こっち向いて姫」
「だから…姫じゃないですって」
唇を尖らせて振り向くキミの頬をゆっくりと撫でる。
「好きだよ」
「…」
「モモは?まだ好きになってくれない?」
「す…好きですよ」
頬を撫でながらゆっくりと顎を上げるとモモの瞼が自然と閉じる。
キスひとつにずいぶんと時間をかけたもんだ…なんて自身を笑いながらそっと唇を重ねた。
「夢じゃ…ないですよね?」
「夢じゃないよ」
俺はお好み焼き屋で射止めたあの日よりもずっと心を奪われていた。
「モモ…」
「…ん」
プッくらとして柔らかな甘い唇をもう一度堪能する。
今度はもう少し長く
「…んっ…」
もう少し深く
「…んぅ…」
キスが不慣れなキミが堪らなく可愛い。