BLUE MOON
第3章 鼓動
さて問題です。
夕方とは何時から何時までのことを言うのでしょうか。
桜木チーフがハンバーグを食べに来てくれると言ってくれたので、私は朝から掃除に洗濯、お買い物とフル回転で用意した。
それなのに…
「チーフのいう夕方って何時?」
徐々に空がオレンジ色から紫色へと変わっていく様をベッドの端に座り眺めていた。
もしかして冗談だったのかな…
久しぶりに誘ってくれたから真に受けてしまったのかもしれない。
枕の横に無造作に置かれた鳴らないスマホを手に取り、まだ1度も掛けたことのない電話番号を見開いた。
電話番号の交換をしたのは海に行ったあの日の帰り道。
いつでも掛けてきていいよ、なんて言ってくれたけど 仕事の邪魔をしてしまいそうで一度も掛けることは出来なかった。
LINEだってそう。メッセージを送ろうとする度に怖じ気づいてしまう。
「遠いいからな…」
私の家は本社のある東京駅から30分近く離れた駅にある。
玄関を入ってすぐに洗濯機と小さなキッチン、その向かいにこれまた小さなユニットバス。
その奥にはたった6畳ほどしかない小さなワンルームの私の部屋。
…せまい
一人でのんびりと時間を過ごすにはいいけど…社長のお孫さんを招待するには小さすぎる部屋だ。
「ハンバーグ作れるなんて言うんじゃなかった」
一人の時間をもて余していると余計なことを考えてしまう。
小さなテーブルに並べた取り皿とお箸を眺めて 花の一輪でも飾ればよかったと後悔なんてしていると
ピンポーン♪
「来た!?」
私はジャンプするように立ち上がり玄関まで走る。
そして前髪を少し直して小さく呼吸をして
…カチャ
ドアを開けた。
「いらっしゃ…」
「コラっ」
すると 桜木チーフは私の頭にコツンとゲンコツをくれる。
「へ?」
「へ?じゃないだろ。若い娘が確認もしないでドアを開けて。俺じゃなかったらどうする?」
桜木チーフは怒った顔をしているのに
「ウフフ…ごめんなさい」
さっきまでのモヤモヤが一瞬で晴れた。
「どうぞ」
「おじゃまします」
小さな玄関に大きな靴が一足
「あっ、頭気を付けてく…」
「痛っ!」
時すでに遅し…古い作りの部屋だから背の高いチーフはドア枠に頭をぶつけてしまう。
「スミマセンっ!」
謝ってばかりの私にチーフはクスリと笑った。