BLUE MOON
第3章 鼓動
「いただきます」
小さな食卓に並べられたのは ほうれん草のソテーと人参のグラッセが盛り付けられた和風ハンバーグと豆腐とナメコのお味噌汁とご飯だった。
「どうですか?」
エプロン姿のモモは箸も持たずに俺の顔をじっと見つめて感想を聞き出そうとする。
味噌汁を一口すすり、ハンバーグを口にして思ったのは
「あったかい」
「え…」
旨いとか不味いとかそういうことじゃなくて
「あったかい味がする」
思ってた通りの俺好みの味だった。
「あの…合格でしょうか?」
モモは首を傾けてその言葉の意味を問う。
「もちろん合格。美味しいよ」
キミはフワリと微笑み食卓に華を添えた。
モモから同棲の同意を得てからかれこれ1時間
キミはキッチンから時折顔を覗かせながらベッドに寝っ転がる俺とこれから始まる生活について話をした。
「だから 要りませんって」
その話は食事が始まっても終わらない。
「いやあるだろ。カーテンは何色がいいだとか最新の掃除機が欲しいだとか」
「要りません」
ねだらない女
「これから二人で住むんだぞ?」
「私は涼さんが気に入ったものならなんでもいいです」
今まで出会った小娘たちとは正反対な欲のない女
「よしわかった!これ食い終わったら俺ん家に行こう」
「今からですか?」
俺はキミを大甘に甘やかしたいんだ。
「そう。今から行って下見して、必要なものを明日買いに行くっていうのはどう?」
「はぃ?」
「善は急げでしょ?」
「はぃ~?」
なんでだろう
キミといると年齢を忘れてはしゃぐ俺がいる。
「そんな…今何時だと思ってるんですか?食べ終わって片付けしたら22時ですよ?それから向かったら夜中じゃないですか」
こうなるとどっちが年上なんだろうって思う。
「泊まればいいだろ」
「…へ」
「お泊まりセット持ってくればすむ話でしょ?」
モモは額も頬を首筋も真っ赤に染めて固まる。
「行くの?行かないの?」
「…ズルい」
悪い大人に捕まったね。
「どっち?」
真っ赤に染まった頬を優しく撫でながら
「行くよね?」
1つしかない答えを紡がせる。
「行きます!行けばいいんでしょ!」
これだから一緒に住まなきゃって思ったんだ。
「良く出来ました」
だってキミは優しすぎるからオジサンは心配で堪らないんだよ。