BLUE MOON
第3章 鼓動
ワガママなチーフの車に乗って辿り着いたのは会社からも近い都心のマンションだった。
「ここがリビングで、あっちがベッドルーム。で、そっちが書斎。トイレとバスルームは玄関の脇ね。」
エレベーターに乗って鍵を差し込んだのは8階の一番奥の部屋。
「カーテンは明日寸法を測りに来てくれるからモモの好きなデザインを決めてくれると助かる」
チーフの趣味だろうか、落ち着いたブラウンの家具がセンス良く置かれていた。
「ソファーはモモの座りやすいのを明日買いに行こう。それとキッチンの小物もね。」
未だに状況を把握していない私はリビングの真ん中でキョロキョロとしていると
「モモ聞いてる?」
チーフは対面キッチンの向こう側からニコリと笑いながら声をかけてきた。
「き、聞いてます」
…ここでチーフと暮らしていいんだろうか
さっきは推されてつい返事をしてしまったけれど
「あの…」
「ん?」
「ここのお家賃おいくらですか?」
私はこの部屋に住めるほどお給料をもらってはいない。
それに、二人で生活するのに必要なものを揃えるだけのお金もない。
窓から見える夜景がここに私が住むのは場違いだと教えてくれた。
私はお泊まりセットが入っているバックを握りしめ現実を思い知った。
「あのなぁ…」
チーフは溜め息をつきながら傍に来ると私を落ち着かせるように髪を撫でて
「家賃なんてモモは気にしなくていいんだよ」
「そういうわけには…」
「俺が一緒に住みたいってワガママ言った。モモはそのワガママに応えてくれた。強引に誘ったのは俺だろ?モモは仕方なくここに住んでくれればいい」
「そんなのダメです…」
「いいの」
「じゃあ、ソファーを買わせてください!あまり高いのは無理ですけど貯金も少しならありますから」
チーフはアーモンド色の瞳を私の視線に重ねて
「モモ?」
私の心を一瞬で抑えつけた。
「だって…」
「ここは俺を立ててくれないか?格好がつかないだろ?」
…やっぱりこの人には敵わない
「モモは俺の傍にいてくれればいいから」
「涼さん…」
アーモンド色の瞳が戸惑う私を包み込む。
「結婚を前提にってそういうことでしょ?」
雲に隠れていた月が顔を出す。
ねぇ、ママ
ママもパパにこんな風に甘やかされた?
「好きだよ…モモ」
私は彼の胸に頬を寄せた。