BLUE MOON
第3章 鼓動
愛しい彼女の頭に顎を乗せて一つ息を吐く。
…参った
ここまで冷静を保てていたのに甘い香りが俺の心に火を灯したようだ。
このままキミを寝室まで連れていっていいのだろうか
それとも、まだこの感情を抑えなければならないのだろうか
年を重ねると行動よりもまず頭で考えてしまう。
「モモ…」
キミは名を呼ばれると胸に埋めていた顔を上げて大きな瞳で俺を見上げる。
その惚けた顔がまた愛らしい
俺は頬を指でそっと撫でて
「そろそろお泊まりセット使う時間だよ」
キミが欲しいと伝える。
「え…」
触れていた頬はみるみると赤く染まり出し
「先にシャワー浴びておいで」
せっかく上げた顔を伏せさせてしまうけど…残念ながら拒否権はない。
「なに?一緒に入りたいの?俺は大歓迎だけど」
モモは真っ赤に染めた顔をプルプルと揺らして
「そ、それは困ります!」
俺の誘いを全力で断り
「では…お先にいただきますっ!」
バックを抱えて頭を直角に下げた。
「はぃ、いってらっしゃい」
色気もそっ毛もないモモらしい行動に俺はつい吹き出してしまった。
*
さっきまで幸せな気持ちで大きくて力強い鼓動を聞いていたのに
「すぅぅ…ハァぁ…」
今 私は涼さんよりも大きく鳴り響く鼓動を沈めようと深呼吸をしていた。
こういうことは初めてではないけど…最後にしたのはかれこれ10年近く前。
ファーストキスの相手のサッカー部の先輩以来だった。
って言っても、彼と肌を重ねたのは2度ぐらい。
その先は…一度もない。
「すぅぅ…ハァぁ…」
お泊まりセットを用意させられた時点で覚悟はしてた。
彼になら抱かれてもいいとも思った。
でも…でもね…
麻里の話では桜木チーフは女性経験が豊富。
処女に限りなく近い私を抱いて幻滅しないだろうかとシャワーを浴びながら溜め息を溢す。
もし、この体が不合格となれば同棲の話だって その先の未来も流れてしまうだろう。
でも…いつかはさらけださなきゃいけないこの体
これから先一緒に住むことになった以上 彼に合否をつけてもらわなければ先には進めない。
私は未だに大きく鳴り響く胸に手を添えて
「よし!」
腹をくくる。
もし不合格でも好きな人に抱かれるならそれでいい。
私は大きすぎるバスタブを見ながら自分の心にエールを送った。