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BLUE MOON

第4章 スタート


「さすが、噂通りだ」

五十嵐さんはコーヒーカップに口をつけると椅子を引いて私を見上げた。

「園田ももさん?」

「桃子です」

スッと差し出された左手

「…よ、よろしくお願いします」

私はその左手を軽く握り深々と頭を下げた。

「悪かったね、無理強いしてしまって」

「いいえ、仕事ですから」

「俺としては誰でも良かったんだけど…園田さんだけが視線を一生懸命反らしてくれたから興味が湧いちゃって」

「…はぃ?」

これはアメリカンスタイルなのだろうか

濃いアイスグレーの冷めた瞳は笑うことなく私に迫ってくる。

「別に反らしたつもりは…」

「変に興味を持たれても面倒だからって意味。誤解しないで下さいね」

「ご、誤解?」

欧米人は自分の意見をハッキリ言うと聞いたことがある。

彼はハーフ?クォーター?

アイスグレーの瞳に日本人離れした高い鼻と体つき

「女は独占欲の塊だろ?だから特定の女は作らない主義なんだ。園田さんもそのつもりで」

「な、何を言ってるんですか?!」

そしてこの物言い。

麻里の話では涼さんが育てたってことらしいけど

「安心してください。私 彼氏いますんで」

「なにそれ、オレよりいい男?」

「はぃ、10倍…いや100倍いい男ですから」

「アハハ、なら安心だね」

この感じだと相当手を焼いたと思う。

笑わない彼の瞳を見て麻里の言うとおり ダメもとでも課長に断れば良かったなんて後悔し始めた。

でも、交通費と接待費の清算だけやればいいんだ。

「ゴホン、仕事の話をしてもいいですか?」

「どうぞ」

そんなのチョチョイのチョイだ。

「では…交際費も接待費も1ヶ月前までと期限が決められてるため なるべくためないようにお願いします。」

「ハイハイ」

「経理で弾かれた分は諦めてください」

「ハイハイ」

聞いてるんだか聞いていないんだかわからない軽い返事に少しイラッとくるけど

「では、よろしくお願いします」

接点はごく僅かなはず。

頭を下げて自分のデスクに向かおうと踵を翻すと

「園田さん」

「まだなにか?」

私は随分と冷たい返事をして振り向いた。

「このコーヒーどこに行けばおかわりできるの?」

…はぁ、この人は本当になんなんだ

「言ってくれれば私が淹れてきます」

始めてニコリと笑った彼に溜め息が漏れた。

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