
BLUE MOON
第4章 スタート
涼さんが出張に向かって三日過ぎた。
頼まれていた資料の整理も先が見え 残りはあとファイル一つ分
息抜きしながらのんびり作業を進めればいいのに
案件をたくさんかかえている彼の手助けになればと思いでPCに向き合ってきた。
それなのに
ピロン♪
ただ一人 私を邪魔する御方がいらっしゃいまして
「…もう」
三時間に一度のペースで鳴り響くのはこの三日ずっと向き合っている私のPC。
メールのフォルダを開けなくたって差出人を見れば内容がわかる。
「…ハイハイ」
内容はたった一言『コーヒー』の文字。
そう、あの冷めた瞳で私をコキ使う五十嵐さんからで
私は溜め息を一つ吐いて席を立つと私のマグカップも持って給湯室へ向かう。
そして、丁寧にお湯を注いで香りを立ちこめさせる。
課のみんなが自由に飲めるようにと置いてあるコーヒーメーカーに作りおきしたものを淹れればいいかなと思うんだけど
「…淹れますよ、淹れりゃいいんでしょ」
その度にパパの顔が浮かんでフィルターをセットして手間をかける。
そして、淹れ終わると彼の机まで運び
「どうぞ」
「どうも」
こんなときばかりニコリと笑う五十嵐さんにコーヒーを手渡す。
確かに、コーヒーを飲みたいなら私に頼めと言ったのはこのアタシ。
でもね三時間に一度、それも社内メールを利用して頼むのはどうしたものか。
それなのに 毎度嫌々ながらもコーヒーを淹れてしまうのはコーヒーに口を添えると心なしかアイスグレーの冷めた瞳が下がるからか
「コーヒー好きなんですか?」
だからかな、意味もなく聞いてしまったのは
「普通」
「普通…なんですか?」
さっきまで目尻を下げたのに話しかければこの始末。
話しかけた自分が悪いと言い聞かせながら席を外そうとすると
「他のコーヒーはね」
「他の?」
「桃子さんのコーヒーはオレ好みですよ」
「そ、それはどうも…」
誉めてもらってんだか利用されてんだかわからない発言に 聞かなきゃよかったと動揺してしまう私がいた。
彼の作り笑顔に盛大な溜め息をついて自分のデスクに戻ろうとすると
「桃子さん、少しお話ししませんか?」
「はぃ?」
なに?
なに?なに?なにっ?!
確実に意味深に微笑みながらコーヒーカップを持つ五十嵐さんがいた。
