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BLUE MOON

第4章 スタート


「どうしてそれを…」

別に隠していたわけでも秘密にしていたわけでもない。

ただ 入れ替わるように出張に行った涼さんの資料をどうして五十嵐さんが持っているんだろうって

私は資料を手にとって五十嵐さんを見据えると

「盗んだからですよ」

「え?!」

「盗んだと言っても私のPCに転送しただけですけどね」

動揺している私の心を見透かすようにあっけらかんといい放った。

資料を握りしめる私が可笑しかったのか五十嵐さんはクスリと笑うと

「あの桜木チーフが手放さないアシスタントさんに興味がありましてね、その仕事ぶりを拝見させてもらったんですよ」

もうとっくにぬるくなったであろうコーヒーを一口飲んで

「そうしたら桜木チーフと同じです。私も桃子さんがアシスタントとして欲しくなりました」

また アイスグレーの瞳を器用に細めた。

真っ直ぐに私を捕らえるその瞳を見続けていると吸い込まれそうになる。

私は一度瞳を瞑って呼吸をして

「五十嵐さんが最初に仰ったんでしょう?伝票整理だけしてくれればいいって。それを今さら…困りますよ」

アシスタントとして言えるギリギリの断りの言葉を並べた。

でも、その真意は五十嵐さんには伝わらないらしい。

彼はカップに残ったコーヒーをグッと飲み干すと

「人の気持ちは変わるものでしょう?それにいずれは桜木チーフとも組んで仕事をしていくように上から言われています。ここは桜木チーフのためにも私のお願いを聞いてくれませんかね」

また断ることの出来ないフレーズを並べた。

…麻里の言ってた通りだ

私は大きな溜め息をついて瞳を伏せると

「五十嵐~、ももちゃんを苛めるなって言ったよな?」

私の肩をトンと叩きながら言ってくれたのは

「魚住課長…」

「桃子さん、苛めてなんていませんよね?」

「阿保、ももちゃんを困らせたってことは苛めてるのと一緒だ」

救世主現る!

なんて…本当なら涼さんに助けてもらいたかった。

だって 魚住課長は

「その件は俺に任せてくれって今朝言っただろ?」

「すみません、フライングしてしまいました」

この話を知っていたうえに

「という事で…桜木がいない間だけでかまわないからコイツの仕事を手伝ってくれないか?」

了承していたようで

「ももちゃん?」

私に拒否権なんて最初から与えられていなかった。

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