
BLUE MOON
第4章 スタート
魚住課長は目配せをすると私を会議室へと連れ出した。
「ゴメンね、桜木に頼まれてた仕事が終わったら言うつもりだったんだ」
そして 部屋に入るやいなや申し訳なさそうに頭を掻きながら言葉を並べ始めた。
「…」
でも、私はいつものように笑って答えられない。
そんな私を課長は椅子に座るように促して真っ直ぐに見た。
「桜木と連絡とってる?」
「いえ…」
実のところ出張に出てから涼さんとは一度も連絡を取り合ってない。
それはお付き合いを始めたときからのスタイルというか
「取ってません
仕事の邪魔になりたくないというか…
毎日、誰もいない真っ暗な広い部屋に帰って彼の香りが残るベッドに身を沈める。
枕を抱いて寝たってぬくもりもなく反って涼さんを思い出して胸を苦しめるだけ。
たった一週間の出張でこの有り様。
一人で生きていこうって決めていた私が情けないったらない。
私はまた俯くと
「今朝、出勤途中に桜木から連絡があったんだ。」
「え…」
「いくつか確認することがあってね」
課長はいつものように優しく微笑みながら
「切り際にモモは元気かって俺に聞いてきた」
彼の言葉を伝えてくれた。
「彼女なんだから直接聞けって言ってやったんだけど、仕事の邪魔をしたくないからって」
私なんて大した仕事してないのに私と同じ理由を口にした。
「出張する前にアイツと話したんだけど、桜木はももちゃんを育てたいらしい」
「育てる?」
「あぁ、桜木は上に立つ人間だ。遅かれ早かれ営業部から出ることになる。そのときももちゃんの能力を最大限に引き出せるヤツと組ませたいって言ってた」
自分の仕事で手一杯なはずなのに…私のことまで考えてくれていたんだ
「だから あの桜木も信頼してる五十嵐となら組ませてもいいかなって俺は考えたんだ」
それなのに私は…
「五十嵐はまだ若いから強引なところもあるけどももちゃんの持ち前の明るさで助けてやってくれないか?」
その想いを無下にして拗ねたりなんかして
「わかりました」
たくさん甘えさせてもらってる私が涼さんのために出来ることは限られてる。
アシスタントの力なんて知れてるけど
「期待に応えられるように頑張ります」
大切な人のために微力ながらも応えたい。
「ありがとな」
だって私が涼さんの一番の理解者でいたいから。
