BLUE MOON
第4章 スタート
週末は部屋の掃除とお洗濯をした。
と言ってもここで暮らしてからまだ日も経っていないので大掃除をするほどでもない。
いつものように掃除機をかけて水拭きしてシーツを干して…時間を潰したというのが正しいかもしれない。
「旨い!」
「社食にそこまで感動されても…」
そして、またいつものように一週間が始まった。
「桃子さんのは何?」
「レディースランチです」
で、何故かランチタイムを共にしているのは午前中営業に出ていた五十嵐さん。
今日は麻里が出張でいないから一人寂しくテーブルに付いたんだけど同意してもいないのに勝手に前に座って五十嵐さんは食べだした。
ここ一週間、彼のアシスタントに就いて思うのは二面性があること。
でも、他の人はこの二面性をほとんど知らないと思う。
だって彼は私の前以外では馬鹿丁寧な言葉を使う。
「桃子さんが桃食ってる」
「…」
こんなふざけたことを言う人だということも
「ごちそうさまでした」
「おいおい、俺が食い終わるまで待てよ」
オレ様な性格も誰が信じるだろうか。
「何で私が待たなきゃいけないんですか?」
「ランチは一人じゃつまらないだろ?」
…ハァ
「いい大人なんですから一人で召し上がってください」
この一週間、私は彼に振り回されている。
食器を片付けて私はいつものように給湯室へと足を向ける。
そして
「やっぱり来てないか」
この一週間で癖になったスマホチェックをする。
何度も押そうとした彼の電話番号。
元気ですか?と一言だけ綴った送信ボタンを押せないメッセージ。
こんなに会えない日が続くなら写真の一枚でも撮っておけば良かったなんて思いながら写真をスクロールする。
「はぁ…」
小さく溜め息をつきながらカップを取ると
「グッドタイミング」
私の手からカップを取り上げる大きな手
「…えっ!?」
その手はこの一週間触れたくて堪らなかった大きな手
「…涼さん?」
私は夢じゃありませんようにと願いながら振り向いた。
涼さんは私から取り上げたコーヒーを目を瞑って一口飲むと
「やっぱりモモが淹れてくれたコーヒーが一番だな」
アーモンド色の瞳を細めて私の頭をポンと叩いた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
コーヒーの香りと共に私の大好きなムスクの香りが給湯室に立ち込めた。