BLUE MOON
第4章 スタート
『今日は早く帰るから』
言葉の通り
ピンポーン♪
20時前にチャイムを押した。
「おかえりなさい」
「ただいま」
…どうしたもんかな
モモは昼に給湯室で会ってからなかなか瞳を合わせてくれない。
「お風呂沸いてますし…ご飯もすぐに食べられます」
ぎこちないその仕草に俺は後悔した。
毎度のことながら俺は仕事なると彼女を二の次にしてしまう。
「モモ」
「はぃ…あっ…」
キッチンに立つモモを後ろから抱きしめる。
「もう終わった?」
「何が?」
「女の子のアレ」
「…あ…はぃ」
出発の前日に運良く重なった女の子の大事な日。
「風呂入って飯食ったら…」
髪の隙間から見えるうなじに唇を落とす。
「いい?」
断られないように優しく丁寧に彼女に伝える。
「あの…その前に…」
「その前に?」
「ただいまの…」
キミは出張中一度も電話もメッセージも送ってこないくせに
「キスが欲しいの?」
こんな台詞は届けてくれるんだね。
張りのある腰に手を添えてゆっくりと振り向かせる。
「俯いてると出来ないよ」
頬を真っ赤にして上目使いで見上げる大きな瞳
「ただいま」
「…んっ」
その瞳に吸い込まれるように唇を重ねた。
角度を変えながら甘い唇を堪能する。
「じゃ、風呂に入ってくるね」
潤んだ瞳がその先を望んでいるのはわかった。
「…はぃ」
でもそれ以上は理性を必死に働かせて我慢する。
だって今抱いてしまったら完璧に壊してしまうから…
*
「おっ、肉じゃが」
「今回は柔らかく煮えてると思います」
ここに住み始めて間もない頃にリクエストしていた肉じゃがを作ってくれたことがある。
その肉じゃがは時間が足りなかったのかジャガイモの角が綺麗に残った少し固い肉じゃがだった。
鯖の塩焼きに大根の味噌汁、海外に出張していた俺を気遣ったメニューに心が暖かくなる。
「いただきます」
キミの笑顔と一緒に手を重ねて帰って来たのだと安堵する。
でもね、俺はキミみたいに気遣いの出来る大人じゃないみたいだ。
「五十嵐のアシスタントについたんだね」
今言わなくていい台詞を並べるオッサンは
「アイツ、随分とモモのことを気に入ってるみたいじゃない」
この一週間、余裕なんてまったく無かったって知ってた?