BLUE MOON
第1章 コーヒーと花束
「はぁ…」
さっきから何度目だろう。
桃子はグラスを両手で被いながら盛大な溜め息を溢していた。
「桃子、光栄なことだと思いなさい。桜木チーフのアシスタントになりたい子なんてこの会社に何人いると思ってるの?」
「だから困ってるんじゃん…」
桃子と白石と3人で訪れたのは会社に程近い居酒屋のチェーン店。
「何膨れてんだ。魚住課長に指名されたんだから胸張って明日から仕事しろよな」
私たちは時間が合えばお酒を酌み交わしながら こうして励まし合ったり、喝を入れたり営業部でたった3人しかいない同期の絆を深めていた。
「それよかさ、桜木チーフって魚住課長と同期なんだろ?それなのにチーフって肩書きっておかしくないか?」
「同期なの?」
「桃子は相変わらず知らないか…それならを私がチーフのプロフィールをしっかり教えてあげよう」
呑気な桃子はいつもこうやって私たちからいろんな情報を仕入れる。
別に私が噂好きなわけじゃないけど、桃子が知らなすぎるんだよ。
「白石の言うとおり魚住課長と同期で34歳。で、独身。私の情報が確かならば今は彼女ははいないみたい。っていうかあのルックスだから特定な彼女は必要ないらしい」
「それに泣く子も黙る会長の孫。高嶺の華なんてもんじゃねぇからな。おまえみたいなチンチクリンは振り向いてくれないぞ」
「チンチクリンって!」
そう、白石が言うように桃子に色気はない。
でも、大きな瞳とフワフワした感じが男性社員の心を擽ってるのは確か。
言葉も柔らかいし所作も女性らしい。わが営業部のマスコット的な存在って言っても過言ではない。
「チンチクリンはチンチクリンだろ」
こんなことを言う白石も多分、桃子のことを気に入ってる。
本人はバレてないと思ってるみたいだけど…
「桃子…」
私は溜め息を漏らす桃子の大きな瞳をじっと見据えて
「いつも通りアンタらしく普通に振る舞いなさい。それ以上でもそれ以下でも女子社員に潰されるのは確かなんだから」
あとは私たちがあなたを守るから…なんて事は私もチーフのファンだから言わない。
でも桃子なら絶対に出来るはず
「うん、頑張ってみるね」
きっと魚住課長が桃子を選んだのには理由がある。
「よし、飲もう!」
桃子じゃなきゃいけなかった理由。
「うん!飲む!」
まぁ、何となくわかるけどね。