BLUE MOON
第1章 コーヒーと花束
「おはようございます」
「おはよう。おっ、早速ありがとう」
翌朝、私はいつもより少し早い電車に揺られて出勤した。
それは桜木チーフが何時に出勤してくるかわからなかったから。
桜木チーフはスッと一口飲むとPCで今日の為替レートをチェックする。
パソコンの傍には一度開いた跡がある経済新聞と英字新聞。
やっぱりこの人は只者じゃないと思わせる。
…さて、
そんな出来る彼を横目に私は昨日移動してきたばかりのチーフのデスクの横で身の回りの片付けをした。
「よし」
ある程度整ったところで私は昨日早速頼まれた御礼状を認める。
昨日渡された黒いファイルを参考にメモ書きされたそれを見ながら文章を組み立てていくと
「もしかして…手書き?」
桜木チーフは私の手元を見ながらそう問う。
「はぃ…」
出すぎた真似をしたかと私は手を引っ込めると
「綺麗な字だね。これなら先方さんも喜んでくれるよ」
そう言って誉めてくれた。
「それにその便箋は桜?もしかして?」
「今の時期というのもありますが…桜木チーフだからサクラ、なんてやっぱりベタですよね」
以前のアシスタントの時にも使っていたこの控えめにサクラが舞うこの便箋。
季節や事柄に合わせてといくつか揃えていた。
名前に掛けたのもあるが、サクラが咲くこれからの時期にも合うような気がしてその便箋を選んだ。
「すみません、桜木チーフに聞いてから書けばよかったですね」
「いや、助かるよ。俺はてっきりPCでさらっと出してくれると思ってて」
「御礼状をPC?それじゃ御礼状にはなりません」
「そうか…俺はそういうの疎いから助かるよ。」
桜木チーフはコーヒーを飲み干すと私の頭にポンと手を置いて
「やっぱりキミにアシスタントを頼んでよかった」
極上の微笑みをくれた。
私は細められたアーモンド色の瞳にクラリと目眩がしてしまいそうになる。
イケメンに見つめられて頭ポンポンなんて…
それに頼んでよかったなんて
「いえ、私は…」
当たり前になりつつあるPCを使わずに便箋に御礼を添えただけ。
たったそれだけなのにここまで誉められるとは
でも、スゴく嬉しかった。
時計の針はまだ10時前。
きっと今日一日楽しく仕事ができそうだ。
なんて、考えが甘かったと反省するのはこれから30分後なのである。