BLUE MOON
第5章 嫉妬
今朝目を覚ましたら私の体に赤い印が刻まれていた。
それは私よりも早く起きる彼に付けられたものなのだけれど
「桜木チーフ今日飲みに行きませんか?」
「ちょっと会合なんだ」
今日も朝からひっきりなしに甘い香りを漂わす綺麗な女子社員からお誘いを受けていた。
「じゃあ明日はどうですか?」
毎日私の目の前で繰り広げられる争奪戦
「ごめん、明日もチョット無理かな」
毎度断ってくれてはいるけど私がいない所で誘われたら首を縦に振ってしまうんじゃないかって不安なやっぱり拭えない。
…はぁ
さっき淹れたコーヒーを一口飲んで気持ちを切り替えて
「桃子さん、△▲会社の資料なんだけど…」
「あ、これですか?」
私は私で涼さんが悩みの種だと言っていた五十嵐さんと仕事を進める。
「このデータおかしくない?」
涼さんは最近私が絡めそうもない大きなプロジェクトに参加していて営業部というよりも会社の代表として動き出していた。
頼まれる仕事いえば交通費の請求と接待のお店の予約。
それと席は隣同士のままだから彼のタイミングを見て勝手にコーヒーを淹れたりする程度
「桃子さん聞いてます?」
「き、聞いてますよ」
だから 無数に付けてくれた印は誰にも見せられないけど凄く嬉しくて
「じゃあ今俺何て言いました?」
「…うぅ」
「聞いてねぇし」
「スミマセン…」
少しずつだけど今の涼さんの彼女は私なんだって思えた。
「今日は朝からヘラヘラしてたりポカーンとしてたり…そういうのマジで困るんだけど」
「そんなこと…」
でも 昨晩の原因である五十嵐さんは相変わらず私には厳しくて
「あるだろ?」
「…」
「あるよな?」
「はぃぃ…」
あの話を100%信じることはさすがに無理だったけど
「五十嵐、園田さんのこと苛めるな」
「参ったな、俺が苛められてるんですよ」
「わ、私ですか?」
「違います?朝から人の説明も聞かないでポケーッとして…」
「五十嵐、いい加減にしろよ」
こうやって助けてくれる涼さんを見ると心配してくれるのがわかったりして
「園田さんこの領収書なんだけどお願いできる?」
「もちろん!」
職場では上司と部下の関係だけど
…ウフフ
ほんの一瞬重なる視線とか指先が
「五十嵐わかったか?」
私たちをより確かなものにしていった。