BLUE MOON
第5章 嫉妬
「これ似合うんじゃない?」
まだ月も控えめに光る金曜日の夕刻。
私は桃子に誘われてショッピングに出かけていた。
つい最近梅雨が明けたというのに街ではもう夏物のセールが始まっていて
「おかしいよ、こんなの着たことないもん」
「何言ってんの、そのぐらいのデザイン着れないでどうするの」
私たちは片っ端から店に入っては品定めしていた。
「買え」
「でも高いし…」
「来週にはボーナスも入るし家賃も光熱費も浮いてんでしょ?」
「そうだけど…」
桃子は素材が抜群にいいのにいつも地味な格好をして価値を下げている。
私たち営業とアシスタントでは給料にも差があるけどそれを加味しても地味すぎた。
「アンタがチーフの隣が似合う女になりたいって言ったんでしょ」
「そ、そうだけどピンクはさすがに…」
そう、桃子もこのままでは不味いとチーフを取り巻く彼女たちに少しでも近づくべく一大決心をして街に繰り出したのだ。
それなのに
「こっちの方が私に似合うと思うんだけど…」
手に取るものはモノトーンの冴えない色ばかり。
「ほらここにレースも付いてるし」
「アンタねぇ」
すべてにおいて臆病だった桃子を陽の目に当てるのはこんなにも大変なんて
「何着持ってても着回せないから取り敢えずこのピンクのワンピースを買えって言ってんの!」
「麻里ぃ…」
「これから下着もサンダルも見に行くんでしょ?だったらつべこべ言わずに払ってこい」
「し、下着も?!」
*
「これじゃ転んじゃうよ」
オシャレな麻里をついてきてもらえばどうにかなると思ったんだけど
「5㎝なんてヒールのうちに入らないわよ」
麻里は私の意見なんか一つも聞かずに大人びた下着を買わせ サンダルを履かせていった。
でも私も女の端くれ
「可愛い」
「でしょ?」
鏡に写る足元は綺麗なラインを描きペディキュアでも塗ればもっと華やかに見えそうで
「どうかな?」
「うん、これなら服も選ばないしいいんじゃない?」
涼さんの隣を歩いてもおかしくないかもなんて心踊る自分がここにいた。
でもね
「…えっ」
たくさんの袋をかかえた私の視線の先に
「うそ…あれ桜木チーフ?」
綺麗な女性の腰に手を回し車の助手席のドアを開ける愛しいひと
「どうして…」
今日は大学の男友達と久しぶりに飲む言ってたよね…