BLUE MOON
第5章 嫉妬
カーテンの隙間から日差しが差し込むこの部屋で私はひとりぼっちで朝を迎えた。
「…涼さん」
いつも涼さんが寝ているスペースに手を伸ばしぬくもりを求めるけどそこに彼の姿はなかった。
仕事柄、出張も多いしお酒を呑む機会も多いから一人で朝を迎えることも珍しくはないけれど
「何で帰ってこないの…」
今日は帰ってきてほしかった。
あれから麻里は私に気を使ってくれて泊まりにおいでとまで言ってくれたけど 涼さんを信じたくて二人の家に帰って来た。
もしかしたら急に打ち合わせが入ったんじゃないかとか そもそも見間違いだったんじゃないかとか
私の都合のいいように昨日の出来事にこじつける。
でも、不安は拭えなかった。
時計の針だけが単調に時を刻み、真っ暗だった部屋に少しずつ太陽の明かりを届けた。
涼さんはいつもの通り連絡ひとつ寄越さずに外泊をした。
「はぁ…」
目を瞑ると昨日の光景がはっきりと写し出される。
腰に手を添えられた彼女は遠くから見てもわかるほどの光沢のある上品な白いワンピースを身に纏い、私が躊躇したピンヒールを履いてエスコートされ助手席に乗り込んだ。
その光景は彼女の私が言うのも変だけどまるで映画のワンシーンのようだった。
「セール品じゃぁね…」
ベッドルームの片隅には悩みに悩んで買った戦利品が袋から出されずに鎮座していた。
きっと昨日の彼女は値札なんか気にもせずに好きなものを買って身につけているはず。
奨学金コツコツと払い続けてる私が太刀打ちできるわけない。
…ボスっ
今寝ているこのベッドでさえ私には似合わないんだろうな。
体中に付けられた印を指でなぞりながら
「身の程知らず…か」
付けられた意味を思い出す。
あの日の涼さんはいつもよりも私を求めてくれていたと思っていたのに…
鬱血させるほど吸い付くことが愛の証だなんて
まだ袋から出されてもいない安物の洋服と私は大差ないんだ。
シャーッ、シャーッ
カーテンを開けて眩しすぎる空を見上げる。
どうして今日は土曜日なんだろう。
平日ならば職場で無理してでも笑っていられてのに
「ダメだ。出掛けよう」
私は着ているものすべてをベッドの上に脱ぎ捨てて浴室へと向かった。