BLUE MOON
第5章 嫉妬
時計の針は10時を過ぎたころ。
「ただいま」
音を立てないように玄関のドアを閉めて
…パタン
まだ夢の中であろうモモの寝顔を思いながら玄関のすぐ脇にある寝室の扉をゆっくりと開けると
「おい寝坊助…あれ?」
休みの日は起こすまで起きないモモの姿がそこにはなかった。
「もう起きたのか?いや、それはないな」
モモは連絡をいれずに遅くなる俺を待ってソファーで寝てしまう。
「風邪引いたらどうすんだよ」
俺はブツブツと文句を言いながらリビングの扉を開けた。
「あれ?」
まだ酒が幾分か残っている俺は冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出して
未だにカーテンが閉まっている窓まで向かう。
「眩しっ」
二日酔いには厳しい真っ青な空を見上げ
…ガチャ
新鮮な空気を入れようとベランダへと続く窓を開けた。
こんな都会でも初夏の香りがするんだなんて思いながらベランダへと一歩踏み出す。
「どこ行ったんだ?」
ミネラルウオーターをグビッグビッと半分ぐらい飲んで存在を隠し始めた月を探す。
モモと一緒に居るようになってからの癖なのだろうか。
今までならば月の存在事態考えたことだってなかったのに
「なにやってんだよ…」
不思議なもので自然とモモの好きな月を探す癖がついていた。
*
顔を合わせたくなくて家を出たのはいいけど
…なにしよう
どう時間を潰したらいいかわからなかった。
意味なく雑踏を歩き 昨日散々麻里と見たはずのショーウィンドウを覗き意味もなくマネキンの前で立ち止まったり
本屋で興味もない雑誌に手を伸ばしてみたり
主演俳優すら知らないマイナー映画を見たり
重い足取りは更に帰宅を遠ざけて真っ暗な空を見上げさせた。
「ママ…」
帰れる場所はもう涼さんのマンションしかない。
スマホを取り出して時間を確認する。
「連絡なし、か…」
行くところを無くして最後に着いたのはマンションの近くにある公園。
ベンチに一人座り噴水に映る揺れる月ををただ眺めていた。
「帰ろかな」
初夏の香りいっぱいの木々を揺らす風が私の背中を押すと のそりと立ち上がりもう一度空を見上げる。
…どうか間違えでありますように
ママとパパが亡くなってからの癖。
私は三日月に手を合わし願いを託した。