BLUE MOON
第5章 嫉妬
「…子さん」
自分では平静を装ってるつもりでも
「…桃子さん?」
「は、はぃっ!」
ダメだな。
ダメージはすぐには回復しないらしい。
「ちゃんと話聞いてます?」
「ゴメンナサイ…」
五十嵐さんと打ち合わせをしている私の視界に綺麗な女子社員と談笑する涼さんが目に入った。
「桃子さんらしくありませんね」
「すみません、ちょっと考え事してしまって…続けてください」
たったそれだけで思い出して落ちる私に五十嵐さんは仕事の話が一段落すると
「で、なにがあった?」
「え?」
「悩みごと。聞いてやってもいいぞ」
私の前でしか出さないオレ様モードで聞いてきた。
「五十嵐さんには関係ないことです」
「でた、素直じゃない女は可愛くねぇぞ」
「私は可愛くありませんから」
なんでかな。
このアイスグレーの瞳が向けられると反抗的になってしまう。
五十嵐さんはそんな私を解っているのだろうか
「彼氏のことなら同じ男として聞いてやれるけど?」
まるで誘導するように私の心に声を掛ける。
「今は仕事中ですし…別に相談することなんてありませんから」
「じゃあランチでもするか?」
拒んでいるはずなのに拒みきれない自分
「もちろんオレの奢りで」
それは五十嵐さんが私だけに見せるオレ様的な優しさのせいなのか
「奢りなら行ってもいいかな」
違う…誰かに大丈夫だと烙印を押してもらいたいからかもしれない。
*
「俺はCランチ。桃子さんは?」
「私は…Aランチでお願いします」
「すみません、二つともCランチにしてください」
「五十嵐さん?」
連れてきてくれたのは会社からずいぶんと離れたイタリアンのお店だった。
「遠慮しただろ」
「してません」
「普通はな、奢りって言われたときは金を出すやつと同じもの注文すんだよ」
「そうなんですか?」
確かにAランチとCランチでは金額が違った。遠慮したと言えばそうだけど
「俺ルールだけどな」
「ウフフ、何ですかそれ」
これはきっと五十嵐さんなりの私に対する優しさなんだろうな。
「で、話す気になった?」
最初のくだりで和んだ私に彼は長い脚を組んで問いかける。
「誰にも言わないって約束してくれますか?」
「もちろん」
運ばれてきた前菜に手を付けながら私は口を開いた。